such is life

取り替えてもいい? 

2018年05月16日 ナビトモブログ記事
テーマ:読書

「ご趣味は?」
「室内装飾です」

好きな女性から、こんな返事がかえってきても、芸術的な趣味だなと思って、うかつには結婚してはいけない。と、作家の星新一が「趣味」というショートショートでいう。

順子の趣味は室内装飾だった。
熱中してくると、日常生活のちょっとした不満など、たちまち煙のごとく消えてしまう。

才能もあり、努力して専門家に負けないすぐれた感覚を身につけた。

順子はまず、父に頼み込んで自分の家の模様替えを手がけた。

「いくらか古風な父の性格に合わせ、和風ムードを基調とし、それに明朗さをあしらった」。

見違えるような出来映えに、順子の腕前に半信半疑だった父も感心した。

やがて順子は一人の男性と知り合い、恋に落ち、結婚した。

夫は順子の趣味を認め、新居の室内装飾をすべてまかせた。

最高のものに仕上げるにはまず、夫を理解しなければならない。

「健康的で、いくらかお人好しで、仕事ファーストのビジネスマン」。

そんな夫の性格に合わせ、窓の大きさから蛇口一つまで吟味を重ね、ついにアメリカふうの近代的な室内装飾が仕上がった。

室内装飾の基本は、住む人の人格を反映した、居心地のよい小宇宙をつくることにある。

訪れる人はみな、家と住人がぴったりととけあった、美の世界に驚嘆した。

そんなある日、夫が順子に贈り物を買ってきた。

高価な一枚の絵だった。
彼自身の好みではなかったが、順子が気に入ればよいと、苦心して手に入れたものであった。

順子は大喜びしたが、安易に飾ることはできない。

まず額縁を変えた。壁紙が合わなかったので、張り替えた。部屋が明るすぎたので、窓を小さくした。

一枚の絵に合わせて、カーペットも、家具も、外壁も庭も、順子自身の服装までも変えていったが、最後に問題が一つ残った。

不満は日毎高まり、耐えきれなくなった順子は、ついに父に電話をして悩みを打ち明けた。

「どうしても夫を取り替えなければなはないの」


星新一『マイ国家』(新潮文庫)に収録


しばらくはテラスで語る初夏の風  風来



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つちのえさん

suchさん

アメリカんジョークにこんなのがありました。

結婚したときは、食べてしまいたいほど好きだった。
ありがとう。
いや、あのときに食べておけばよかった。

2018/05/16 19:04:17

ショートストーリー

つちのえさん

星新一の
現実にはあり得ないことを
いかにもあり得そうに描く
非現実的な世界観が好きです。

男は結婚するとき、
女が変わらないことを望む。
女は結婚するとき、
男が変わることを望む。
お互いに失望することは不可避だ。

アインシュタインの
この言葉を思い出しました。

2018/05/16 18:00:14

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