なんで?

大温室 4 

2014年02月28日 ナビトモブログ記事
テーマ:仕事

 3月。イチゴ屋は数日かけて温室を片付け、「契約期限が切れましたので…」と挨拶して、事務所のテレビや冷蔵庫を車に積んで行った。
 温室の裏側の車の通り道に、イチゴの絵を描いた大きな看板が二本、残されていた。また別の人が苺を作りに来るのだろうと思っていたけど、夏も秋も誰も来なかった。覗いて見ると北東棟の端っこの、台の無い土の所に捨てられてあったマンゴーの切り株に、細い枝が無数に伸び、葉っぱを付けていた。
 そしてまた1年、大温室は誰の役にも立たず雑草を温めていた。北東胸の、田んぼに向いた長い壁の一部が陥没して、窓が壊れていた。
 今年のお正月過ぎ。温室の前を通ると軽トラが停まっていて、中に入って家を眺め、しきりに思案しているおじさんがいた。イチゴ屋が捨てて行った板切れを4枚ほど貰おうと、声を掛けた。
「ああ。なんでも、欲しいもんがあったら持って行って。けど、わしが仕事に来るのは7日からやから、7日に来て」
「なにを、作りはるんですか?」
「わしは作れへん。解体屋や。これ、全部壊す」
「壊すんですか」
 今度は何を作る人が来るのだろうかと思っていたけど、この立派な大温室を壊してしまうとは思わなかった。
「勿体ないですねえ」
「もったいないな」
「こんな立派な温室、何処にもないのに…」
「ほんまや。大き過ぎる」
「壊すとなったら、1か月ぐらいでしょう」
「なかなか。3か月は掛かるな。鉄骨やから、古家の解体みたいに揺すぶっても壊れへん」
「苺屋さん、ようけ資本掛けていろいろしてみてはったけど、やっと苺が成功して今年はいっぱい作りはると思てましたのに」
「そうらしいな。みなお金かけて損して、結局、誰もよう使わんということになったんや」
 
 



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