どうでも雑記

石部の棚田 T「田越し」 

2022年10月03日 ナビトモブログ記事
テーマ:伊豆の生活

伊豆半島の西側、松崎町の石部地区は更に海岸沿を南下、小さな岬を幾つか超えると小さな石部漁港がある。賑やかだった時代の面影を残しつつ、今でも何軒かの民宿が営業していて美味しい魚介類が食べられる。

港の側に「平六地蔵露天風呂」があり無料の混浴で、以前はよく入りに来た。最近脱衣所もできて、水着着用になったので女性も入りやすい。

石部地区の町中を流れる川沿いに山に向かって細い道を車で10分ぐらい、小さな集落には廃校になった小学校がある。ここに車を停めて、細くなった沢沿いを上ると山の斜面に棚田の広がりが見えてくる。

棚田の中央をくねくね曲がりながら上ってゆくと水車小屋と農機具倉庫兼作業小屋があり、少し上には立派な平屋の休憩小屋がある。

西伊豆のセカンドハウスで二地域生活をしていた頃に、棚田保存の活動に参加していた。

3月末、海を見下ろす美しい棚田に今年も春が来て米つくりが始まる。
最初の仕事が田越こしで、鍬やスコップ、鎌を持った人達が、ぞろぞろ棚田へと登ってくる、急に棚田が騒々しくなる。

「田越し」とは田んぼの表層部の土と深部の土をひっくり返し、細かく砕きながら掘り起こす。その時に、昨年刈り取って残っている稲の古株も土の中に混ぜ込む作業を行う。

その次に行うのが「畦切り」です。畦とは田んぼの縁とか田んぼ間の仕切りで、普通の田んぼの畔はコンクリートだが、棚田は昔のような土を盛った畔です。

前年に泥を塗った畔を鍬で削ぎ落とし、モグラやサワガニが空けた穴を埋めながら、杵で叩いて畦全体をギュッと固めて強化する作業です。

畦切り作業が終わった棚田に光が当たると、まるで彫刻刀で掘り起こしたような見事な陰影が描き出す模様が奇麗に出現する、棚田全体がキャンパスに見える。

そして田お越しの最後は「蓑口作り」といって、棚田に水を引き込むための準備作業です。
上の棚田から下の棚田へと順に引き水をするときに、滝のように水が落ちると下の棚田に滝壺ができてしまうので、それを防ぐ方法です。

岩地の棚田は垂直に近い石積みが多いが、水を流す場所にワラ束を組み合わせて積み上げたところに水を流すことで、水の落ちる勢いを弱くする。
そのワラを組んで積み上げる作業を蓑口作りと言い、主に女性がやっています。以上の仕事全体を田お越しといいます。

棚田で生息する昆虫や小動物たちは、土の暖かさで春を感じて目を覚ます頃、小さな虫たちも活動し始める。草の芽が出て木の芽が色づく頃は静寂な棚田が少しずつ騒々しく感じるだろう。

冬眠しているカエルはどこにいるのだろう。突然、田越しの音、人の声で静寂だった棚田がお祭り騒ぎになるから、寝ている布団を剥ぎ取られるような思いだろう。
(つづく)



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