ほっこり

鍵(小話) 

2020年03月12日 ナビトモブログ記事
テーマ:小咄




その日、私は陽気に誘われ散歩に出かけていた。
しかし、途中でお腹の調子が急に悪くなり家路を急いだ。

お腹がピーピーゴロゴロ〜急げ!

「トイレだ、トイレだ。我慢、我慢」

少し前かがみの姿勢で内股歩きで小刻みに早歩き

やっと、我が家の門の前に着いた

敷地は背の高い塀で囲まれている

まず、スマホ・アプリを操作して庭中に張り巡らされた防犯センサーのスイッチを切る。不審者が侵入したらサイレンが鳴り、警備会社に自動通報されるシステムだ。

次にインターホンに設置のカメラに向かって顔を近づけボタンを押す〜顔認証システム

インターホーン「ご本人と確認できました〜ピー」

「カチッ」〜2個の錠前のロックが解除される

鍵を2本使って、やっと、門扉が開く


「急げ!ううう〜っ」


広い中庭を抜けて、屋敷の玄関前に到着した

私のことだから玄関にも防犯の仕掛けがある
3つのシステムをクリアして始めて、ドアの錠前2個のロックが解除されるシステムだ。

インターホーン機器に中指をつける
光が走る

機器「指認証ができました。ピー」

次にカメラに眼を近づける

機器「眼球認証ができました。ピー」

私「あ〜、もうあかん。ぎりぎりだ〜っ、神様〜」

そして、最後の関門〜「声紋認証」

ただ単に声を出せばいいような単純な仕組みではない

「寿限無」を早口で間違いなく唱えなければクリアできない高度な認証システムになっている。


大きな声を張り上げ唱え始めた


 寿限無 寿限無
 五劫のすり切れ
 海砂利水魚の水行末
 雲来末 風来末
 食う寝るところに
 住むううう〜と、と、ところぉ〜

冷や汗が流れ出し、声が止まった

機器「もう一度最初からやり直してください。ピー」

3回間違えると鍵ロックが解除できないのだ

あいつが、あの忌まわしき奴がもう出口の近くまで降りてきている。
あせるな、落ち着け、でも、深呼吸ができない、緩んでしまう
尻に力を入れ、股間を閉じて、前かがみでドアに片手をついて
防御姿勢にて、最初から唱え始める


 寿限無 寿限無
 五劫のすり切れ
 海砂利水魚の水行末
 雲来末 風来末
 食う寝るところに
 住むところ
 やぶら小路のぶら小路
 パイポパイポパイポの
 シューリンガン
 シューリンガンのグーリンダイ
 グーリンダイの
 ポンポコピーの〜ぉ〜ぉ〜ぉ〜

 ♪ポンポコ、ピー、ピー、シャー、グチャー、ビチャー♪

ここで、すべてが終わった

私は玄関前でついに果てた・・・

 ポンポコナーの
 長久命の長助

あと少しだった

玄関用の2本の鍵を握り締め
悪寒に身震いし、立ち尽くした
その憎き匂いを放ちながら
呆然として、空を見上げた

さわやかな青空が広がり
ふわっとした雲がポカリポカリと浮かんでいる

敗軍の将、兵を語らず

スパイの秘密基地のような防犯システムに私は負けた




♪じゅげむ〜動く絵本 3:42
https://www.youtube.com/watch?v=fJz8zvehVCE&t=104s
「じゅげむ」の意味がよくわかります




※「空耳」に拍手を頂きありがとうございました。



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漫歩さんへ

ぼてふりさん

何度も経験があります。

急にくる腹痛
トイレに駆け込めば満員御礼〜蒙御免

とても、つらく長い時が流れます

2020/03/12 16:49:32

難行苦行

漫歩さん

私が、ぼてさんの緊迫感をわが身になって思い出したのは、現役の通勤車中で突発した産気のことでした。
門筋をめいっぱいい締め付けて押し寄せる圧力に耐え、次の駅で降りるや足早に(駆け出さないこと)、向かうと、なんと!先客が〜。

サラリーマンの難問題でしたね、、

2020/03/12 15:08:50

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