ほっこり

すずめのお宿繁盛記 

2020年05月27日 ナビトモブログ記事
テーマ:小咄


○ 雀のお宿繁盛記



むかしむかしのことじゃった。

高いお山の連なる峰々の脇に少し低い山があって、その峠にたいそう立派なすずめのお宿があった。
そこからは眼下に広がる里の眺めが素晴らしく、峠の茶店としても評判がよかった。

近郊の鳥たちや渡り鳥たちが翼を休めたり、旅の疲れを癒すために多くが集まる旅籠としても有名なすずめのお宿だった。
近くの沢には温泉も湧いていて湯治場として老若男女が利用していたんじゃ。

お宿の主のお婆さん雀とたくさんの若い雀の娘さんたちが働いていたんじゃが、それはそれはたいそう繁盛しておった。

ここには朝から夜中まで人生模様色とりどりの鳥たちが集まって来ていたそうじゃ。


お洒落をして女人に声をかけまわる伊達男のカッコウ

周囲の目をよそにいちゃいちゃするオシドリ夫婦

酔っ払いの懐を狙うノスリ

里の宿場で飯盛女をくびになって夜ごと客を探しに来る夜タカ

トンビが産んだという頭脳明晰で優秀な伝説のタカ

お食事処で繰り返し食べては吐き戻す職業病の鵜飼いのウ

だみ声でお袋さんの唄ばかり歌う演歌歌手の森のフクロウ

啼いたが為に鉄砲で撃たれ、傷を湯治場で癒すキジ


そんなある日のこと、ここに一羽の旅ガラスが舞い降りてきた。

カラスは赤い毛氈を敷いた蓮台に腰を掛けると草鞋の紐を緩めた。そこへ、主のお婆さん雀がお茶を持ってやってきた。

「いらっしゃいませ。お茶をどうぞ。何になさいますか?」

「甘酒と団子を二串ばかりもらおうか」

「はい、かしこまりました」と言って、女中の若い雀に注文を伝えた。娘は萌黄色の小紋の着物姿でそれがいとも愛らしい。

「ばあさんよ、噂には聞いていたがこの店は流行ってるね。建物は大きいし敷地も広い。それに凄いねこのお客の数は、百は下らないな。こんな場所にこれほどの宿があるとはびっくりしたよ」

「はい、その昔、大きな竹薮だったのを切り開き、開墾して造り上げたのでございます。ここには近くの鳥さんや季節ごとの渡りの鳥さんなど大勢の方々がお立ち寄りになられます。その種類も様々で『より鳥み鳥』とはこのお宿ことでございます」

「ばあさん、洒落っ気たっぷりでうまいこと言うじゃないかい。こんなに流行ってりゃ儲かって仕方がないだろう?」

「いえいえ、忙しいだけで懐に残るのは雀の涙でして、おばばには儲けがないんですよ」

「ばあさんには儲けがないだって、こいつは笑わせやがる。どこかに大きな蔵が建ってるに決まってるわい。しっかり溜め込んでるだろ。大きな箱に金銀財宝ざっくざく。ははは」

そこへとびっきり可愛い娘が甘酒と団子を持ってきた。

「おっ、おねえさん別嬪さんだねぇ〜」

雀の娘ははじらい、うっすらと頬に紅がさした。

「お客さんは御目が高いね〜、うちの看板娘、紅スズメの茜ちゃんですよ。さ〜さ、どうぞ甘酒と団子を召し上がれ」

「ばあさん、俺も長旅のしがない旅ガラス、長いこと他人と話をしてないんで、しばらく話に付き合っちゃあもらえないかい?」

「ははは、いいですよ。ごらんの通り店は多くの娘たちが切り盛りしてくれていますから、おばばが抜けても大丈夫ですよ。かえって足手まとい、喜んでお話のお相手させて頂きましょう」

「山道に面してこれだけの広い敷地、建物も二階建てときている。しかも、なかなか粋な造りだぜ。それに見渡したところ、小さい奴から大きい奴、近場の山鳥から水鳥、そして渡り鳥まで凄い数の客だな」

「表の蓮台が三十、そして一階にはお食事処と大小の宴会場が十ありまして、二階がお泊りのお部屋になっています。離れにもお座敷が四つございまして、裏庭から竹薮を抜け下って行きますと湯治場がございます。」

「なる程ね、長閑さと賑やかさが同居した峠だ。ところで、あそこのニワトリだけど、何か面白いことでもしゃべってるのかな?皆、大笑いしてるじゃないかい」

「ここにはいつも、庭には二羽裏庭には二羽ニワトリがいまして、あれはウコッケイです。専属の道化師でして、『ケッコー、ケッコー、う〜ケッコー、コケッコ、コケテ、う〜滑稽♪』と唄って踊って御ひねりを稼いでいるんです。面白い男なんですよ」

「あはは、そいつはいいや。そう言えば、さっきからあそこでピーチクパーチク騒いでるガキ共うるさいな、どこの子だい?」

「ヒバリの子達です」

「その向こうでおしゃべりしてるあの娘たちも煙草くわえて行儀がなっていないねぇ、品がない」

「あの娘達はジュウシマツの十姉妹で始末に負えない、この近所でも有名なあばずれ、不良娘達ですよ。困ったものです」

「ところで大広間では宴会をやってるのかい、たくさんのハトが賑やかにやってるのが見えるけどね」

「あ〜あれは近所の里で荷受をしてるハト印の引越屋の宴会ですよ。日焼けした体格のいい男達はドバトで、ひ弱そうなのが勘定方の町衆のハトです。酒とおつまみの豆さえ出しておけば、後はハトが豆喰ってパ!で勝手に楽しんでくれます」

「胸の大きなハトの娘さんたちもいるねぇ〜」

「ハト胸で色気振りまいてるのは派遣の酌人や置屋からの芸妓衆ですよ。美容の為にハト麦茶を飲んでると聞いています。」

「今、舞台で唄ってる二人は双子かい?唄が上手だ!」

「コマドリ姉妹ですよ」

「美しい声で何やら司会をしてる女がいるみたいだけど?」

「彼女は美声で売ってるウグイス嬢ですよ。あ〜見えて、彼女もつらい目にあってるんです、可哀そうにね」

「何があったんだい。教えてくれるかい?」

「あそこの席に親子連れ三羽のホトトギスがいるでしょう。あの母親が曲者でね、と言っても習性だから仕方ないんだけど、あのウグイスの巣にこっそりと卵を産みつけて、彼女の卵は地面に落としちゃったんです。哀れウグイスは孵ったヒナを我が子と思いせっせと育てたのに、成長したら逃げられちゃったんですよ」

「そりゃあ、ひどい話だね」

「でも、旦那は教養人でね、俳句の名人なんです。『ホトトギス』と言う有名な雑誌を発刊しているんですよ」

と、その時、二階の客室の開いた障子窓から一羽のツバメが飛び去ったかと思うと、しばらくしてライチョウの熟女が大慌てでやってきた。

「おばさん、これ見て」と手紙を渡すなり、その場で泣き崩れてしまった。

「どれどれ」

手紙にはこう書いてあった。

『静かな水鳥たちが仲良く遊んでいるところへ一羽のツバメが飛んできて平和を乱してしまった。若いツバメは池の平和のために飛び去っていく』

「そうかい、出てお行きになったんだね。つらいよねぇ」

お婆さんは彼女の肩をさすりながらしきりに慰めた。

「おばさん、わたしは水鳥じゃないわ、ライチョウよ」と、言いかけては又泣き出して始末に終えなくなり、お婆さんは番頭さんと思しき雀の姉さんを呼び、部屋に連れて行かせたのだった。

「あのこはね、雪解けの後、仲間の女同士で高いお山から下りてきて長逗留していたの。そしたら、画家のあの若いツバメがやって来て彼女といい仲になり、結局、仲間内でぎくしゃくしていたのよ。とうとう、ツバメが出て行ったのね」

「いろんな物語がこのお宿にはあるんだね」

その時、カモのお爺さんが声を掛けてきた

「ばあさん、今日も持ってきたよ。台所に置いて来るね」とお勝手口の方へ歩いていった。背中にはたくさんのネギを背負っていた。

すると、大きな声が離れの座敷から聞こえてきた。

「チュン、チュン、そのチュン(中)当り〜ロン!大三元」

「何だい?お婆さん。あの大きな声は」

「支那からの渡り雀と近くのメジロやカケスが離れで麻雀をしているんですよ。カケスはその名の通り『賭け好き』だし、メジロは弱いからいつも負けて白目をむいているんですよ。いつも傍で見ているのがアホウドリでね、賭け事好きのお馬鹿さんばかりです」

旅ガラスとお宿のお婆さんとの世間話はしばらく続いた。


そして時は過ぎ、お日様が山の端に隠れようとしていた。


その頃、宿の中では、二階に宿泊している書家のワシが、女中に半紙を用意するよう申し付けていた。

『わしはシワの和紙は使用しはしないワシわしに和紙持て来(こ)』

「はい、この通り早口で復唱して、間違わずに、いい紙を持って来なさい。わかったかね?」

旅ガラスはそんなことを知る由もなく、雀のお婆さんに茶代を渡し、話を聞かせてくれた礼を言って深々と頭を垂れた。

すると、お婆さんは旅のお供にと、お菓子の「雀のたまご」をカラスに持たせた。カラスは再びはぐれ鳥となって、夕日に赤く染まる山の彼方へと飛び去って行った。


高い峰を越えながらつぶやいた

「鳥越し苦労だけはやめよう、人生より鳥み鳥」




♪北島三郎〜雀のお宿
https://www.youtube.com/watch?v=77K2_gLUteM




※ 「古城のモーニングサービス」(5/25・ブログ)、「シラサギの脚よりシロミニの脚」(5/26・ギャラリー)に拍手、コメント頂きありがとうございました。ギャラリーは平凡なスナップ写真でしたが、コメント欄で少し盛り上がって可笑しかったです。今回の「雀のお宿繁盛記」はそのコメント欄にインスピレーションを受け、昨晩一気に書き上げました。(笑)

※ 画像はネットヨリ



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かをるさんへ

ぼてふりさん

コメントありがとうございました。

面白くお読み頂いて光栄です(^0^)
最近書いた小話の中ではうまく書けた方かなと思います
鳥に関する知ってることや貧困な知恵の総動員です(笑)

次は書きかけの「南十字星の恋」です

又、お気軽に訪問してください

2020/05/30 11:54:43

発想に脱帽

かをるさん

ぼてふりさん、面白いことこの上ないですね!
一気に楽しく読ませていただきました。

こんな発想が出来るなんて
脳の中が広くて、深くて色とりどり
それも一晩で一気に書き上げるのですから
びっくりぽんです。

2020/05/30 10:17:39

宏子さんへ

ぼてふりさん

コメントありがとうございます

色々な鳥を登場させてみました。
賑やかなお宿だったでしょう(笑)

何度も読み返して手直ししたので時間がかかりました

楽しんで頂けたなら書いたかいがあるというものです(^^)

2020/05/27 21:30:17

すずめのお宿

宏子さん

いろんな旅鳥の宿
面白いですね!

賑やかで人間堺も真似できる

楽しいですね
北島三郎良いですね

2020/05/27 21:10:56

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