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占い師のコーヒータイム

「強い(コ・ワ・イ)おんな」完結編 

2014年08月29日 ナビトモブログ記事
テーマ:暮らし

冴子から相談を受けた頃、私の状況は夫が
大腸ポリープの切除手術の後に体調が悪くなり、
更に検査のため、入退院を繰り返していた時で
あった。

私は我が夫に気遣いながらも、冴子の電話は
一方的に話し始めるというパターンで、受ける
私はうんざりし始めていた。

自分の夫の浮気疑惑とその相手を勝手に○○子だと
思い込んでいる年上女優への嫌悪感を機関銃の
ように吐き出してくる。
その話に長々と付き合わされた。
自分の都合だけで電話してくる冴子である。

当時、私は既に運命鑑定士免許を取得して
対面鑑定を中心にしながらもネットでの
占いサイトを持ち、その原稿執筆をこなす
忙しい最中でもあった。
気の強い冴子とて、困った時の神頼みのように
今までも占術的な助言をも求めて来ることは
あったのだが…

古くからの友人とはいえ、それも夫婦の問題
である。
おまけに浮気問題となれば私的な意見だけに
留めるのが得策と、愚痴の聞き役に徹すること
にした。
何をアドバイスしても、自分の想いを貫き通す
冴子だと解っているからだ。
夫の浮気相手が○○子だと信じて疑わない冴子は、
追求の手を緩めることなく夫の手帳を盗み見し、
行動全てを報告させ、地方公演の時などは滞在する
ホテルまで電話をして在室して、いることを確認
するという執拗な行動を続けていた。

そんな冴子の夫の浮気疑惑問題で、ほぼ毎日の
ように掛ってくる電話に時間を割かれる日が続いた。

間もなくして、冴子の夫から思い余ってか、
会って相談したいと、連絡してきたのである。
妻からの浮気疑惑を晴らすため、本人からの
相談だとあらば友人としても、それに応える
しかないと、銀座で落ち合うことになった。

もちろん、勘の鋭い冴子には極秘で行動する
必要がある。

冴子の夫は、私たちより一回り年上でその頃でも
既にシニア年代に入っていた。
業界では著名なプロデューサーである。

何度か会ったこともある私もさすがに怯む。
いつも堂々として一人の男性と見ても
ダンディな男性である。
その彼が、喫茶店の片隅の席で肩を落として
座っている。

久しぶりの挨拶を交わした後、低音の良い声で
話し出した。
「冴子は最近、躁鬱病じゃないかと思うほど
おかしな言動を繰り返し、参っているんです。」

「手帳まで勝手に見られて…」と。

冴子が私に相談していることは既に分かっている。
すぐに本題に入り、一刻も早く解決に向けたい
思いが伝わってくる。
冴子から聞いている内容と同じようなことを
一気に話し出す。
目の前の大物プロデューサーが痛々しく
見えた。

手帳のメモ書きのことは既に冴子から
聞かされていたので「でも、冴子は
言ってましたよ」
「○月○日に○○子バースディーと、
メモ書きがあった」と。
その頭文字の主を特定できると…
えらく興奮して話していたことを告げた。
「冴子は例の女優さんの誕生日に違いないと
疑ってますよ!」と、私も冴子に同調するように
返した。

「いえ〜、あれは別の女性なんです」

「あっ、そうなんですか!?」

私はこのことは口が腐っても冴子には言えないと
思いながら…内心‘あ、ちゃ〜’
冴子が冴子なら、この夫もどうなって
いるのか。
浮気相手は○○子ではないにしても、別の女性とは
浮気はしていると、白状したようなもの。

私こそ薄情な気分で‘もう、なんでもいいから
終息してほしい’が、本心であった。
新婚でもない、熟年夫婦の戯言は、聞いてる
ほうまで見っとも無く思えてきた。

その日は、冴子の気を静めさせ、掛けられた
浮気疑惑を晴らす手伝いを懇願され別れた。

それから冴子からの電話は少し間が空く
ようになった。
幾日が経った頃、また冴子の夫から悲痛な声で
報告するかのような口調で電話がかかってきた。

「今日はゴルフで○○に来て、これから帰る
ところなんですが…実は昨夜、寝ている間に
冴子に…下半身の毛を全部そられていた…」
口ごもりながらも「眠剤を飲んで寝る習慣が
あるので、朝起きるまで気づかなかったんです」
と…。
絶句する私に続けて
「裸になれないように!」と、冴子が言ったと。

こんな早朝の熟年夫婦の口喧嘩は、想像を絶する。
私の人生にも周りにも、かつて聞いた事が
無いものである。
耳から聞こえてくる冴子の夫の声はまるで
壊れかけたオルゴール音のように断片的に
鳴っているようだ…
気が遠くなる思いだ…

同時に美人の冴子のイメージが一気に崩れていく。

ゴルフが終わってもお風呂にも入れず、帰路の
車の中から電話していると話す。
声の向こうに、手に汗を滲ませ携帯を握りしめて
いる姿までが伝わってくる。
彼は私に、もちろん、何をどうしてくれというの
ではない。
持っていき場のない、恐怖感と遣る瀬無い想いを
吐き出したかったのだろう。

私は開いた口が塞がらないまま、最後に何を
言って電話を切ったか覚えていない。

 あれだけ頻繁に電話を寄こし、夫の一挙手
一投足を他人の私にぶちまけ、女としての
プライドも無いのかと思わせるほどであった冴子。

冴子の何が壊れたのか…今もこれからも冴子は
自分の口からこの事を話しだすことはないだろう。
私は、現在も恐し過ぎて事の顛末を聞く気もしない。

これは女の性が、そうさせたのではない。
冴子の育った環境にだけ根ざしたものでも
ないと思う。

闇夜の中で光る剃刀とゾリゾリと毛を剃る音を
共に聞いたような思いにされ、今も残像のように
その音が蘇る。

ただ、冴子が夫の本体を傷つけなかったこと
だけが、救いである。

強い(コ・ワ・イ)おんなは、
何処にでも確実にいる。
                   <完> 
   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
画像は以前に描いた「藍色の芍薬」



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クララ&アンナさんへ

彩々さん

読んでくださってありがとうございます
事実は小説より奇なりと申します。

運命鑑定をしているとこんな連続ですが
人生の中で自分が壊れてしまいそうな
事も起こる中、如何に良い方向へと
示唆することが仕事です。
しかし、それも聞く耳を持たない時期も
あるということも、これまた事実です。

2014/09/10 15:33:42

う〜ん

クララ&アンナさん

読んだよ〜

知ってるだけに・・

でもフィクションです!

字にするとまた違うね・

過ぎ去ったこととはいえ・

あれ以来、私もちょっと間を置くようになりましたね

子供時代とは違う・

でも今が幸せそうだから良しじゃない・

としよう!

2014/09/10 14:49:16

お忙しい中

彩々さん

澪さん、ご無沙汰です。
お忙しい中、一気に読んでくださって
ありがとうございます。

何だか「モノ書きさん」ブーム(?)に
のってつい、書いてしまいました(笑)
吾喰楽さんも、次回作が明日発表らしいですよ。

冴子は強い女なら良しとするでしょうけど
弱みを見せない女なので、人から哀れられる
ことが、最も嫌いなはず。
でもそれが、「哀しいおんな」とも
いえるのでしょうね。

冴子夫婦は表面上は普通に暮らしてます。
夫は一人になりたくとも、恐くて別れられ
ないでしょうね(!?)

2014/08/31 10:49:30

(*^▽^ノノ゙☆パチパチ

澪つくしさん

彩々さん!やっと休日になったので、一挙に読み上げました〜!
なにやら最近ナビのみなさんが「物書きさん」へ変身されてるのを、薄々感じながら・・・
なぜか仕事?野暮用?が重なって、シニアナビはご無沙汰してましたm(_ _)m

最後の詰めで感じた事・・・
冴子の本心は「強い(コ・ワ・イ)おんな」じゃなくて「哀しいおんな」なんだって。。。


フィクションとは思えない表現力!!
冴子夫婦のその後の方が気になるのは、私だけ?

次回作、楽しみにしてま〜〜す(o^∇^o)ノ

2014/08/31 10:29:37

秋さんへ

彩々さん

風邪のせいか早く床についたら
一時に目が覚め、またベッドに入って
また3時半から起きてますの
!Σ(×_×;)!

お読みいただけましたか?
これはフィクションですからね、、、

人生のきわどい時にご相談を
受ける事もまま、有りますが
概して、やはり気も強くハッキリ
ものをいう女性は、隠し持っている
ものが違います。
良くも悪くもということです、、

2014/08/30 04:33:32

リアリティがあります。

秋桜さん

運命鑑定士の肩書きを持つ彩さんなら、
この種の話に事欠かないでしょう〜
身近な体験者として迫力あります。
描写が素晴らしいですよ〜


怖いおんなもノーサンキューですが
浮気男のイジイジも情けないですね。

他人の不幸は蜜の味^^
茶かすわけではありませんが、しあわせいっぱいの
話より、どろどろとぐろを巻くぐらいの話のほうが
やっぱりおもしろいですね。

次回作を楽しみにしていますわ!
おねぇさま!

2014/08/29 21:52:12

恐いでしょう!

彩々さん

喜美さん、一気に読んでくださって
ありがとうございます。
この手の内容は、一気に読んでいただいて
ド〜ンと引かす。
もう二度と読みたくないって思うでしょう。
かなり現実の話しなんですぅ〜

2014/08/29 16:29:09

えー

喜美さん

コ ワ イ オ ン ナ恐ろしい
こんなに食入って
読み終わるのは貴女が上手なのね
私は解らないけれど ただ夢中で読み終わったことは貴女上手なわけ

2014/08/29 16:08:44

α

吾喰楽さん

プラスアルファだから、ゼロかも知れないし、長くなるかも、ということです。
短くなることはありません。
1話の長さは、前作と同じくらいです。

2014/08/29 15:01:27

吾句先生

彩々さん

乗ってますね!

9話+α←このαはナニ!?

2014/08/29 14:53:18

コワイ話しは

彩々さん

Soyoさん、長いこと生きていると
’事実は小説より奇なり’ということに
出会いますね。
鑑定ではそういうことに度々出会いますが
これは守秘義務の問題があるので書けません。
(参考にはさせてもらうけど)
それをどこまで膨らませるかが
難しくて面白いところ。
後はその人の生き様から出てくる想い、
考え方に、文章力で面白い流れが作れ
たら読ませる本となるのかしらねぇ。

それにしても物書きとして食べている人は
すごいね!
凄いエネルギー要るしね。

2014/08/29 14:50:49

再々々ですが

吾喰楽さん

次小説、9話+αです。

2014/08/29 14:26:20

Yさんも一作UPしてください

彩々さん

Yさん、お読みくださってありがとうございます。

作品に仕上げるって、陶芸にしろ
粗削りなものは仕上がっても雑さが
目立ちますが、それが良かったりする
モノも多いです。

読み手のことを考え過ぎると、読者に
迎合したモノになり、面白みが出なく
なったりと、難しいです。
書いている内に自分カラーが確立して
くるでしょう。

ハイソではありません。中ハイです(笑)

2014/08/29 13:55:51

ラストが

さん

特に印象的で怖かったです。
最後の描写は読者を引き込んでぞくりとさせますね。

世の中にはこんな人も居るんだ。とあっさりお茶漬け系の私にはよい勉強に(笑)
運命鑑定士のお仕事では、色んな人生の断片を垣間見る事でしょう。
まだまだネタは尽きないわね。
楽しみ♪楽しみ♪
だけど、ちょっと怖い。

2014/08/29 13:48:15

吾喰楽さんへ

彩々さん

今度のは5話まであるんですか!?

大変だったでしょ。
9月1日が発行予定日なんですね。
カレンダーに○を付けて待ってます!

私はラストのイメージをはっきりさせて
から戻って行きながら肉づけを書いていく
ほうが書きやすいと思ってます。
それぞれなんでしょうが、実際に書いてみて
初めて気づくことって、ありますね。
むしろ、何事もそうですね。

2014/08/29 13:41:15

パトさんへ

彩々さん

多大なるお褒めのお言葉と
素直に受け取りました。(笑)

なんせ、物書き気取りで小説もどきを
書くのは初めてです。
甘口、辛口のいずれの評価も甘んじて
受けるつもりです。

次回作があるかないか、まったく未定ですが
それまで爪を研ぎ直し、また新しいジャンルにも
トライしてみようかとも思っちゃってます。(笑)

2014/08/29 13:26:52

おはようございます。

さん

小説なるものは初稿で完成なんてことは有り得ません。
どれほどの大作家であろうと改稿を重ねて完成させます。
粘って細部を切り込んで、ふくらませてみると更に人の
気を引くでしょうね。

しかし、ハイソな経験されておられるんですね^^

2014/08/29 10:51:42

再々ですが

吾喰楽さん

次小説は5話まで書き終えました。
明日からでも投稿出来ますが、もう少し推敲を重ねたいと思います。
ラストシーンが、中々、思い浮かばず悩んでいましたが、ようやく決まりました。
いつの間にか決まった予定の9月1日から始めます。

小説「バス・ストップ」は、夢中で書き終えました。
出来はともかく、次作になると、変な欲が出てきますね。
もう少し大人の恋と思っていますが、経験が浅い語句です。
今、生みの苦しみを味わっています。
もっとも、それも快感なんですが。

2014/08/29 08:54:33

能ある鷹は

パトラッシュさん

爪を隠していましたね。
いや、才能の片鱗は、これまでも、垣間見えていましたが。

私は、枝葉末節のところへは、突っ込まないようにしています。
大筋で、素晴らしいです。
終章へ、巧みに持って行くところに、練達の手腕を感じます。

2014/08/29 08:50:17

恐れ入ります。

彩々さん

おはようございます。
今日も雨の一日になりそうで
(ベランダ工事は遅々として進みません)
本を読むか、物書きに徹するかですね!?

語句さんこそ、待望の次小説、早くUP
してください。待ってます。

コワイ女は一話完結で書いていきたいかと
思っているんですが、特に今回は思い出しながら
書いていると恐い記憶がよみがえって。
早く終わらせたい思いが強くなり
さっさと、脱稿に持ち込みました(笑)

2014/08/29 08:39:02

恐い〜

吾喰楽さん

おはようございます。

一気に拝読しました。

感想を記します。

2話ではなく、5話くらいで読みたかったです。
筋は今のままでも良いから、ゆっくりと楽しみたかった。
次の展開を予想しながら、翌日を待ちたかったです。

とはいえ、素晴らしかったですよ。

2014/08/29 07:39:30

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