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人生日々挑戦
「あゝ上野駅」
2013年10月13日
テーマ:人生
上野駅は、東京の北の玄関口だ。明治16年、1883年の7月28日が開業日だから、今年で、開業130周年を迎えている。
ふるさとの訛なつかし
停車場の人ごみの中に
そを聴きにゆく
漂泊の詩人、石川啄木さんの短歌であり、三行詩である。上野駅に行き、詠んだ歌とされている。
啄木さんの生涯は、1886年(明治19年)2月20日-1912年(明治45年)4月13日の26年間という短いものであった。
今の上野駅の駅舎は、二代目であり、1932年(昭和7年)4月に落成しているから、啄木さんがふるさとの訛りを聴きに行った駅舎は、その前の初代の駅舎である。
石川啄木さん。その人生そのものが物悲しさを漂わせている啄木さんが、二十代前半というか、もうじき生涯を閉じるあたりに、上野駅に「なつかしいふるさとの訛り」を聴きに行ったというのだ。
こうして考えてみると、一つの三行詩は百年後を生きる私たちに、さまざまに語りかけるが、百年以上前の石川啄木さんにとっても、上野駅は、「あゝ上野駅」だったのである。
当時の上野駅も人の群れでごった返していたが、啄木さんは、ふるさと岩手県の南部弁訛りを一瞬のうちに聴き分けた。
周りにどんなに人がいて相手の姿が見えずとも、その声が小さくとも、「ふるさとの訛り」はすぐに分かる。
なぜか。それは、ふるさとの訛りだからだ。人にとって、ふるさととは、そういうものだ。
石川啄木さんは、「ふるさとの訛り」を聴いて涙した。
今年の9月8日、2020年オリンピックが東京で開催されることに決定した。東京でのオリンピックの開催は二度目であり、前回は、49年前の1964年に開催されている。
1964年と言えば、石川啄木が上野駅に「なつかしいふるさとの訛り」を聴きに行ったあたりから50年くらい後だ。こう考えると、近代日本の歴史は、短いものである。
東京オリンピック開催の1964年に爆発的に流行った歌がある。
どこかに故郷の 香をのせて
入る列車の なつかしさ
上野は俺らの 心の駅だ
くじけちゃならない 人生が
あの日ここから 始まった
その名も「あゝ上野駅」。我が青森県は津軽が生んだ庶民派歌手、井沢八郎さんが歌った。
井沢八郎さんは、ハリウッド女優にして歌手の工藤夕貴さんのお父さんだ。
この親子を称して「鳶(とんび)が鷹を生んだ」と表現する人がいるが、どうしてどうしてこの鳶は、ただの鳶ではない。鷹みたいな鳶だ。
「あゝ上野駅」のほかに、「男傘」、「北海の満月」、「男船」などのヒット曲があり、1965年と
1966年の2度、NHKの紅白歌合戦に出場している。
東京オリンピックの頃は、1964年に東海道新幹線が開通するなど、日本が高度経済成長の真っ只中にあった頃である。
高度成長は、東京オリンピックを挟んで前後の20年近く続いた。日本の近代史上、最も活気に満ち満ちていた20年と言っていい。
ちょうどこの期間における日本の高度成長を支えた労働力は、地方から東京や大阪など大都市の企業に集団就職した中学校卒業の子どもたちである。
最盛時の1964年には、35道県から8万人近くが集団就職し、輸送機関としての集団就職専用列車が延べ3,000本もあったという。
東京には、東北地方や新潟県、北海道からの集団就職の子どもたちが学生服姿で上野駅に降り立った。
1960年代に東京に集団就職した子どもたちは40万人にも上るという。この人たちが日本の高度成長を支えた。日本の経済発展は、彼らのおかげだ。彼らは、金の卵と呼ばれた。
年端も行かぬ中卒者の彼ら。故郷が恋しい。ホームシックにもなった。「あゝ上野駅」の3番の歌詞にある。
就職列車に ゆられて着いた
遠いあの夜を 思い出す
上野は俺らの 心の駅だ
配達帰りの 自転車を
とめて聞いてる 国なまり
彼らは、淋しい時、上野駅に行った。故郷には帰れない。だけど、上野駅には行った。
そして、そこには、石川啄木さんが「ふるさとの訛り」を聴いて涙したのとまったく同じ光景があった。
「あゝ上野駅」の4番の歌詞が続く。
ホームの時計を 見つめていたら
母の笑顔に なってきた
上野は俺らの 心の駅だ
お店の仕事は 辛いけど
胸にゃでっかい 夢がある
みんなの仕事は、辛かった。しかし、夢が叶うことを信じて、みんなが頑張った。ホームの時計が作ってくれる母の笑顔が頑張れって声援を送っているいるんだもの。
あれから半世紀が経つ。あの集団就職の子どもたちは、東京を生活の本拠としている人が何十万人といるだろうし、故郷に帰った人もいるだろう。
7年後、2回目の東京オリンピックが開かれる。彼らは、東京で、あるいは帰った故郷やその他の地で、2回目の東京オリンピックをどんな気持ちで観るのだろうか。
人生いろいろ。さまざまな感慨を抱きながら、東京オリンピックを観て、往時をも思い出すだろう。
そして、みんなが共通して願うのは、「日本よ、再生してくれ」だ。
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