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敏洋’s 昭和の恋物語り

恨みます (六) 

2022年05月14日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



 電車がカーブに差し掛かったらしく、減速を始めた。やがて車体が傾き、後ろ向きだった女性が男に正対した。「えっ! こんなブスかよ! バックシャンじゃんかあ。詐欺だぜ、まったくう」 つい男が、口をすべらせた。言いのがれはきかないぞとばかりに、一樹がかみついた。「このヤロー! やっぱりじゃねえか。あやまれえ!」 事の成り行きを見守っていた周囲から、形勢の悪くなった男に向かって女性たちから一斉に非難の声があがった。「そうよ、あやまんなさいよ」「サイテー男ね」「いや、ちがいますって。ほんとに知らないですよ」 泣き顔になりながら必死に弁解するが、それがまた火を点けた。「ほらっ。こうやって、両手でつり革につかまってたんですから」 一樹の力がゆるんだところで、両手でつり革につかまった。
「だめだめ、俺が見たの。あんたの手が下におりたところを」。なおも一樹が言う。そして女に対して「ねえ、そうでしょ? さわられたでしょ、お尻を」と、語気強く迫った。「え、ええ……」。女が弱々しく小声で答えた。確かに触られたような気がする。しかしそれは、はっきりとした意思が感じられるほどではなく、ただ単に触れたというほどのことようだった気もする。そう告げたかったのだが、一樹の強いことばに反してしまう。なによりこんな自分のために対してくれているのだ、とそれ以上のことばを飲み込んだ。
「ほらみろ。彼女、こわがってるじゃないか。で、どうする? 警察につきだすかい?」 一樹の問いかけに、女は、黙ってかぶりをふった。「そう。君って、優しいんだね。おいっ、チカン男。彼女が許してくれるらしいぞ。感謝しろ」 勝ち誇ったように、一樹がチカン男を睨みつけた。「すいやせんでした、ごめんなさい」と、半ば投げやりにチカン男があやまった。 軽く頭を下げ、そそくさとその場から離れた。“まったく、俺じゃねえよ。ちょっと触れたかもしんねえけど、わざとじゃないし”と、こぼしながら離れた。
「まだあんなこと、言ってやがる」「あのお、ありがとうございました」。小さな声がした。「いえいえ、ゼンゼンですよ。それにしても、やさしいんですね」 突然のことばに「えっ?」と、驚きの声をあげた。まったく見覚えがない。初対面の男のばず、と一樹のことばが理解できなかった。挨拶を交わした相手ならば、ほとんどを覚えている。愛想が悪いと、両親にも会社でも言われる女だ。失礼のないようにと、常日頃から心がけている女だ。
「ぼく、あなたのこと、知ってるんです」「えっ、えっ、えっ。あたしの、ことをですか?……」 驚きの表情で、女が一樹を見上げた。「そうです。この間、お年寄りに席を譲ってあげてましたよね。ステキなひとだなあ、って感心してたんです」「えぇっ? あたしじゃありません。覚えが、ありませんけど。いつのことですか?」 今度は女ははっきりとした声で、否定した。“当たり前だよ。そんなところ、見てないんだから”と、心の中で呟きながら「ほんと、奥ゆかしいひとだ。心のきれいなひとは、決して自慢しないんですよね」と、褒めちぎった。「ほんとに、あたし、覚えがないんですけど」「そうですか。それじゃ、そういうことにしておきましょうか」

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