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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (百八十八) 

2022年01月25日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



「その先物取引の借金をチャラにしたのは、御手洗なんだよ」「な、な、な、、、」 言葉が出ない、思いも寄らぬことを告げられた。「督促が来なくなったろうが。まだあるぜ、竹田さんよ。毎月の仕送り、あれも御手洗だ。小夜子お嬢さまはご存知ないことだがね。御手洗のおかげで、三度三度のおまんまやら晩酌が出来てるんだ」 へなへなと座り込んでしまった。「あれは、小夜子が、小夜子が……」と、呪文のように呟き続ける。「いや、大丈夫じゃ。佐伯の本家に嫁げば、そんなもん返せる」
「空手形は切るものじゃない、竹田さん。正三とか言う若造のことかね。さあてね、どういうことになっているのか」「そ、そうじゃ。まだおる。ロシア娘がおる、ロシア娘が」 勝ち誇ったように言う茂作に、五平は薄ら笑いを浮かべた。「やれやれ、アナスターシアのことかね?」「そ、そうじゃ。わしの娘になりたいと言うロシア娘が、そんなことぐらいなんとでもしてくれる」
「ま、生きてればね。何とかしてくれたかもしれないねえ。しかしあの世に行っちまった今となってはねえ。悪いことは言わない、御手洗の世話になりなさい」 座り込んでいる茂作の肩に手を置き、優しく声をかけた。「御手洗はねえ、とに角ベタ惚れなのよ。小夜子お嬢さまにしても、御手洗との生活に満足されているんだから」
 五平の声が耳に入っているのか、いないのか。茂作は頭をうな垂れたまま、身じろぎひとつしない。「それじゃ。近いうちに、御手洗本人があいさつに来ますので」と、ぶ厚い封筒を茂作の前に置いた。「タキよお。わしゃ、どうしたらいい? 小夜子を取られちまう。どこの馬の骨とも分からん奴に、取られちまうぞ。わしの、わしの小夜子を、取られるよお……」
 茂作の妻であり、小夜子の祖母にあたるタキに話しかける。小夜子がいなくなってから、とみに増えた茂作の合掌すがただ。産後の肥立ちが悪かったタキは、澄江が二歳のおりにかえらぬ人になってしまった。タキを嫁にもらって分家した茂作は、一心に働いた。一番鶏のなくころには畑を耕し、家路に着くのはてどっぷりと暮れてからのことだった。
そして夜は夜とて、土間にゴザを敷いてのわらぞうり作りにはげんだ。次男に生まれたが為に味わった苦汁。次男に生まれたが為に味わった苦悩。次男に生まれたが為に味わった悲哀。相思相愛の初江を、次男に生まれたが為に諦めさせられた。
“見返してやる。本家より金持ちになってやる” 取り憑かれたように、働きつづけた。タキもまた、茂作同様にいやそれ以上に働いた。澄江を身ごもった折も、周囲の懸念をよそに働きに働いた。澄江を産み落としてのち、少しの産後の休養をとることもなく畑に出た。そしてそれらの無理がたたり、茂作の畑からの帰りを待たずに、他界してしまった。

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