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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (百八十七) 

2022年01月20日 外部ブログ記事
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 板間に上がりこんだ五平は、両手をついて「わたし、富士商会の加藤五平と申します」と挨拶した。 思いもかけぬその所作に、茂作の思考が止まった。「社長、御手洗武蔵の名代として、本日は伺いました」 富士商会? 御手洗武蔵? 聞き覚えのある名前が飛び出した。血の気の引いていた茂作に、少しの安堵の色が出た。「富士商会さんと言いますと、確か、小夜子が勤めているとか言う会社でしたかの?」「はい。小夜子お嬢さまをお預かりしている、御手洗の代理でございます」 気後れしていた茂作だが、へりくだった五平の物言いにやっと気力が戻った。「ま、飲みなさいな」と、冷めてしまっているお茶を出した。
「本日お邪魔致しましたのは、小夜子お嬢さまの件でございます。いえいえ、すこぶるお元気でございます。毎日を御手洗の世話で忙しくされております」「はて? 御手洗さんの世話と言われたか? 学校に行く傍ら、仕事を手伝っていると聞いておったが?」 憮然とした顔で、語気鋭く詰め寄った。そんな茂作を、軽く受け流しながら「仕事など、とんでもない。小夜子お嬢さまにそんなことは、御手洗が許しません。しっかりと英会話を身に付けて頂かねば」
「茂作さぁ、茂作さぁ」。戸口から、呼ぶ声がする。小声で、呼ぶ声がする。「なんだい、うるさい」。おっとり刀で、茂作が戸口へ向かった。「茂作さぁよ。あのお方は、どういう素性の方かの?」「誰でも良かろう。さあ、帰った帰った!」「そんなわけにいかんのです、助役に言われて来たんです」「助役だろうと誰だろうと、去ね」 茂作の剣幕に押された役場の守は、やむなくその場を離れた。
 茂作にしてみれば、五平の用向きが気になる。小夜子をお嬢さまと呼ぶことが気に入らない。茂作を小ばかにしているように感じられる。“貧乏人だと見くびりよって! 小夜子は、佐伯の本家に嫁ぐ身ぞ。大身代の佐伯本家にじゃ。馬鹿にすると承知せんぞ”先日に大見得を切った啖呵のことなど、ころりと忘れている。「それで、どんなご用ですか? わしも色々と忙しい身でしての」「こりゃ、失礼致しました。本来なら媒酌人を立ててお伺いせねばならんのですが、そういった堅苦しいことがとんと苦手でして」
「ち、ちょっと待った! 媒酌人とはどういうことか!」 寝耳に水のことに、怒りで手がぶるぶると震える。「出てけえー! そんな話は聞きたくもないわ!」「落ち着いてください、竹田さん。悪い話ではありませんで。小夜子お嬢さまも、ご納得されておりますし」「ばかたれえ! 納得もなにも、あるもんか! 小夜子は、小夜子は、わしの娘じゃ!」 怒り心頭に達している茂作に、五平がドスの利いた声で告げた。「竹田さんよ、そんな風に虚勢をはるものじゃないよ。あんた、借金があるだろ?」「い、いや、それは……」 思わず絶句してしまった。五平をその取り立てかと疑い始めた。そこを突かれると、黙るしかない。
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