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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (百八十六) 

2022年01月19日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



 突き抜けるような青空が、五平には眩しく感じられる。黄金色に揺れる稲穂を見るにつれ、胸の奥に痛みを感じ始めた。田舎道を数人の娘たちと共に歩く。両脇の畑仕事に勤しむ百姓たちの指すような視線が、五平の全身に冷たく突き刺さる。視線を返すとすぐに逸らしてしまうが、外すとまた射てくる。そんな繰り返しを続けながらも、涙顔の娘たちを急かしながら道を行く。そんな光景が思い出されてしまう。“しっかりしろ! 加藤五平。お前は女衒の五平じゃないんだ。富士商会という真っ当な会社の専務さまだ。今日は、社長御手洗武蔵の名代で来たんだ。胸を張れ!”
 この村には珍しく入ってきたタクシーが、茂作の家屋前に着けられた。茅葺きの古い家屋で、縁側の所々がすでに朽ち掛けている。庭の草も伸び放題で、人の手がまったく入っていない。低いながらも石垣で作られた小道を、タクシーから降りた五平が歩いて行く。何事かと、村人が集まり始めた。農作業の手を休めて見入る者も居る。「もし、もーし!竹田さーん! もし、もーし!」
 付き添ってきた者が戸口で声をかけるが、中からは何の返事もない。ならばと土間から台所に回り板間を見るが、茂作の姿はない。「茂作さぁ、茂作さぁ!」と呼びかけながら、奥へと入り込んだ。裏口まで行き、ひょいと顔を出した。手押しポンプを使い、桶にたらいそしてヤカンにと地下水を注ぎ込む茂作がいた。「おう、ここに居たか。お客が見えとるが? えらい立派ななりのお方じゃが」「客だ? 立派ななり? うーん、誰じゃ」
 まさか先物取引の男では? と、身構える茂作だが、武蔵がすでに清算済みだとは露知らぬ。そういえばこの所なんの催促もない。諦めたのかと考えたりもしたが、「大丈夫かの? 茂作さぁ。昼寝だったか? いいご身分じゃ」「ふん、なんということもないさ」。ふらつく足が、心の動揺を表している。「お待たせしまして、すまぬことです。奥で昼寝をしておりましたわ。今、出てきますで」 ぺこぺこと腰を曲げる村人に、「お手数をおかけしまして、申し訳ありません。」と、五平が軽く頭を下げた。
「はてはて、どなたですかな?」 草履をペタペタと鳴らしながら、戸口へと向かう。いつもの場立ちの人間ではない。初めて見る顔に不気味さを感じつつも、横柄な態度をとった。精一杯の虚勢だ。“いざという時は、田畑を処分するさ。小夜子の所に転がり込めば済むこと”と、腹をくくる算段をするが、忸怩たる思いもある。「竹田茂作さんでしょうか?」 柔らかい物腰を見せる五平に、“間違いない。先物取引に違いない。埒があかぬと、上の者が出張ってきたか”と、観念した。「なんじゃ、お前ら。見世物じゃねえぞ! 去ね、去ね!」人だかりに向かって怒鳴りつけて追い払った。

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