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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (百五十三) 

2021年10月27日 外部ブログ記事
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 コックリコックリと、茂作が陽光の中で至福の時を過ごしている。
縁側の向こう側の花壇も雑草だらけとなってしまった。
小夜子が作っていた花々も、水をやる者が居なくては見るも無惨に枯れてしまった。
最近は小夜子の夢を見ることも、とんと少なくなった。
少し前までは、小夜子の夢を毎夜の如くに見ていた。
きらびやかな服に身を包み一条の光に導かれて、ホール中央に現れる。
その後ろに、多勢のバックダンサーを従えての登場。大きく両手を広げて歓声に応える小夜子がいる。
「小夜子、小夜子、、、」。何度か呼んでみるが、年老いた茂作の声は大歓声にかき消されてしまう。

「ほら、ここにお出で」
 小夜子の白い手が茂作に向けられ、手招きをする。
夢遊病者の如くにふらふらと、小夜子に近寄る茂作。
茂作 ? いや、そこには小夜子にかしずく正三がいた。正三が小夜子の前にひざまずき、うやうやしく手を取っていた。
「小夜子さま、正三は永遠の愛を誓います」
 妖艶な笑みを浮かべて見下ろす、小夜子。
それを見上げる正三、いや茂作だった。茂作が正三に、そして正三が茂作に。
入れ替わるその様に、ただただ困惑するだけだ。

「大丈夫、大丈夫よ」。 優しく耳に響くのは、確かに小夜子だった。
「茂作さん、茂作さん」。
声をかけられてもすぐには声が出ない。まだ夢の中に度舞っている。
「茂作さん、為替が届いています。この証書を持って、局まで来てください」と、郵便局員が肩に手をかけた。
「あ、お前か。為替が着いたと? そうか、そうか、ありがとうよ。世話をかけたな」
 竹田小夜子名義の為替が届き始めてから、もう一年が経つ。
差出人に疑問をまったく持たぬ、茂作。
二十歳そこそこの小娘である小夜子が、如何にして工面している金員なのか、まるで気に留めない。

 村人たちの寄り合いの場では、その小夜子の稼ぎ場所が話題になっている。
多分にやっかみが含まれて、いろいろとかまびすしい。
「なんぞ聞いたか?」
「いかがわしい所での稼ぎじゃねえかと、聞いたが」
「わしは、妾じゃと聞いたがの」
「確か、女給をしとるんじゃなかったのか?」
「おおかた、そこで見つけたんじゃろうて」
「まあのう、別嬪じゃったからのう。ない話ではないのう。
しかしそれにしても、茂作も情けない。孫娘に養ってもらうとは」

 小夜子が武蔵宅に身を寄せているなど、露ほどにも知らない。
毎月送られてくる為替が、小夜子名での為替が、実は武蔵からだとは思いも寄らない。
しかも先物取引からの督促がピタリと止まったのが、武蔵の手によることも知らない。
“わしの一喝におそれをなしたな”と、勘違いをしている。
“小夜子は良い子だ。キチンと忘れずに送ってくれる。おかげで楽ができるというものよ”

 それほどに畑仕事に精を出していたわけではないが、多少の収入はあった。
しかし今は、草の生え放題になっている。見兼ねた本家から苦言がくるが、どこ吹く風の茂作だ。
小夜子からの為替にすっかり頼りきっている。
ならばと、本家が畑の世話をすることになった。雀の涙ほどの借地代が茂作に入る。
「戦前には考えられぬことぞ、本家が分家の畑を耕すなんぞ。逆ではないか」と、お婆さまが嘆く。
「いっそ取り上げてしまえ!」と、怒った。

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