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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (百五十二) 

2021年10月26日 外部ブログ記事
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「う、う、うぅぅ」
押し殺した声が隣の部屋から聞こえてくる。「みね!」うめくように叫びながら、障子を勢い良く開けた。
「源之助、さま……」
 すがるような、それでいて身体を捩って顔を背けるみねの姿が、そこにあった。
「みね。お前が愛しい、愛しいぞ! やはりだめだ、お前と別れるなど、到底できぬ」
「源之助さま、源之助さま。そのお言葉だけで、結構でございます。みねは、十分でございます」

 しっかりと抱き合った二人に、女将の目から大粒の涙が溢れ出た。そして意を決しって、二人に告げた。
「そこまで二人が思いあっているならば、みね。源之助さまの妾におなり」
 予想だにしない女将の言葉に、源之助は耳を疑った。
「なにをバカな! そんなこと、できるわけがない。みねを妾などと、正気の沙汰じゃない!」
 激しく詰る源之助に、みねの口から
「源之助さま。みねは、お妾にならせていただきます。
どうぞ、源之助さまはお父さまのご意志に、お従いくださいませ」と、信じられぬ言葉が出た。

「し、しかし……」
「みねの、決断でございます。源之助さまの真心に対する、みねの真実でございます。
どうぞ、お汲み取りくださいませ」と、畳に頭をこすりつける女将、みねもまた頭をたたみにこすりつけた。
「すまない、すまない、みね。きっとお前を、幸せにする。
お前は、僕のこころの妻だ。世間的には、戸籍の上では、まだ知らぬ女性が妻となるけれども、本当の妻はお前だ」

 その丁度一年後、奥方との華燭の典を上げた。それまで足繁く通っていた源之助だったが、婚姻後はパタリと足が止まった。
みねの心に動揺する思いが生まれた。
“奥方さまの目もあるし、いかな源之助さまでも”。
そう言い訳をしてみるのだが、源之助に対する疑念の気持ちが沸々と湧いてくる。
必死に抑えるみねだった。しかしひと月ふた月経ち、半年が過ぎても源之助は顔を見せない。
“新婚さんですもの、致し方ないわ。そうだわ、お仕事がお忙しいのよ。
そういえば予算書がどうのと仰っていたわ”。
ついぞ笑顔を忘れてしまったみねだ。

「源之助さまのことは、諦めなさい。情の薄い方でしたね、みね。
まだお前も、若い。良縁があったら、嫁ぎなさい。
橘屋は、誰ぞ他の方に継いでいただくことにするから」
 女将がみねを気遣うが、みねはきっぱりと拒んだ。
「わたしは、大丈夫です。一生涯を通して、源之助さまをお待ちします。
心配は無用です、お母さま、いえ、女将」
 女将がその翌年に、この世を去った。そしてその通夜に、源之助が顔を出した。
それを機会に源之助は、ちょくちょく顔を見せた。みねは恨み言ひとつ口にせず、以前のようにお妾然と振舞った。
「みね、すまなかった。長く、待たせてしまったな」
 女将の置き土産を、ありがたく受け取ったみね。そして二十三歳の、若女将が誕生した。

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