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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜(百四十八) 

2021年10月14日 外部ブログ記事
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「今夜はこの部屋にしよう」と正三が通されたのは、初めて入る源之助の書斎だった。
大きな窓を背にした幅五尺ほどの無垢材机があり、壁には天井まで隙間なく蔵書が整理されていた。
塵ひとつないない部屋は、源之助を如実に現している。
緊張の面持ちで立ちすくむ正三に、粗末なソファを指し示した。
局長室の模様替えの折に、処分予定の物だった。
来客用というよりは、仮寝用にと持ち込んだ。
自宅に客を呼ぶことのない源之助で、家族ですら入室を許されない部屋だった。

「ま、座りなさい。いいか、正三! お前もいつかは家を持つことになる。
その折には、書斎を作りなさい。人間、独りになれる部屋が必要だ。
瞑想ができる部屋が、だ。ところで正三お前は、この逓信省で何を為すつもりだ?」
「は、はい?」
 思いも寄らぬ問いかけに、ぐっと言葉に詰まってしまった。
「そんな、何を為すなんて……。ぼくは、いえぼくには僭越すぎます」

 まさか、小夜子を追いかけてきたとは言えない。
小夜子がここ東京に出てくることになるとは思いも寄らぬことだったし、まったくの偶然ではあった。
当初の正三は、確かに“お国の為に、等しく庶民の為に働くぞ!”という気概があった。
しかし小夜子を知ってからと言うものは、小夜子にだけ思いが至っている。
「その言葉の使い方はおかしい。言葉の使い方には、その人間の教養というものが出る。
本を読みなさい、といっても低俗なものはだめだ。
今度揃えといてやる。しっかりと、心して読むように。
まあまだ、覚悟というものはできないかもしれん。
私が、お前に目標を与えてやる。次官になるんだ! 
いいな、私が果たせなかった夢を追いなさい。
本来なら私は退官しているところだ。同期の者が、名前を口にするのも腹立たしい権藤が、次官の席に座った時点で辞めなければいかんのだ。
しかしだ、正三!」

 源之助の声が一段と大きくなる、張りが出る。思わず直立不動の姿勢をとる、正三だ。
「入ります、お茶をお持ちしました」と、奥方の声がする。
カクカクと固い姿勢で、お辞儀をする正三だ。緊張感がとれない。
「いらっしゃい、正三さん。あらあら、そんなに固くなってらして。あなた、外にまで聞こえそうなお声ですよ」
 にこやかに微笑みながら、テーブルの上にお茶、お茶菓子を並べた。
「どうぞ、お食べなさいな。お夕食、まだでしょ? お話が済むまでまだ時間がかかるでしょうから、お腹空くでしょう」

 目を閉じ腕組みをしている源之助だが、どこかぎこちない。
省においても家庭においても、絶対君主として振舞う源之助ではあるが、内心では奥方に頭が上がらない。
「お前の入省の話が持ち上がったからこそ、恥を忍んで居座っている。
全ては、お前を次官にする為だ。ご本家からは、せめて局長になってくれればと言われている。
そんなことは、私が許さん。
いいか、来年にだ。東京大学法学部に入学しなさい。
席は、逓信省に残しておいてやる。大丈夫だ、話はついている。
形ばかりの試験はある、面接のな。全て決まっているから、心配はいらん。
みっちり勉強して来い。そして然るべき家から、嫁を貰うんだ。閨閥を軽んじてはいかん」

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