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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜(百四十七) 

2021年10月13日 外部ブログ記事
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「はい、佐伯ですが」
「お初でございます。わたくし、富士商会の代表を務めさせて頂いております、御手洗武蔵と申します」
 虚を突かれた源之助だった。外部に公表していない、一部の人間しか知らぬ電話に、武蔵がかけてきたのだ。
“この男、どういう男だ。政府関係者に繋がりがあるのか? こりゃあ、迂闊なことはできんぞ”
「先ほどは留守をしておりまして、大変失礼いたしました。
局長さま直々のお電話だということで、早速連絡をさせて頂きましたが。
何ですか、竹田小夜子嬢のことだとか?」

 慇懃な武蔵の口調に、源之助はつい椅子から立ち上がってしまった。
「いやいや、早速のお電話、恐縮です。実はですな、竹田小夜子嬢は私の見知りおきでして。
上京していると聞き及びましたので、消息を調べていましたところ、何ですか御社にお世話になっていると聞き及びまして。
実家の方からも、頼まれましたものですから」
 弱気な己に憤りを覚えつつも、“実家に連絡もしないとは、どういうことだ!”と、言外に責めた。

「ああ、そうでしたか。
本人には親御さんに近況をお知らせするよう、申し付けていたのですが。これは、失礼致しました。
今現在、英会話の研修中でして、わたくしの家に住まわせております。
中々にいい娘さんで、やらなくていいと申しているのですが、おさんどんもやってくれております」
「ほお、そうですか。で、社長さんのご家族は?」

「わたくし、まだ独り身でして。うーん、局長さまになら、よろしいかな、、
実は、小夜子嬢を伴侶に迎えたいと思っております。
時期を見て、使者を立てるつもりでおります」
「ほお、そうですか。それは、それは。小夜子を嫁に、ですか。それは、それは」
「改めましてご挨拶にお伺いさせて頂きますが、ご連絡を差し上げますのでその節はお時間の調整をお願いしたいと思います。では、失礼致します」

 武蔵の電話が切れた途端、源之助の表情が、みるみる緩み始めた。
“さもありなん、だ。気を揉むこともなかった。
この地で、小娘が独りで生き抜くなどありえんことだ。これで正三も、女のことは諦めるだろう。
そうだ、いっそのこと見合いをさせるか。
正三は、幾つになった? なあに、身を固めるのに早すぎるということはない”

「佐伯正三さんですか? わたくし、簡易保険局局長佐伯の秘書官、山中と申します。
佐伯からの伝言で、『今夜、自宅にお出で願いたい』とのことでございます。では、失礼致します」
 突然の呼び出しだった。それが小夜子の件であることは、正三にもすぐに分かった。
“小夜子さんと連絡、とれたのか? やっぱり、叔父さんは早い。
即断即決の佐伯、との異名があるが。
何を言われるか、お父さんとも連絡は取り合われているだろうし。ああ、気鬱だなあ”

「深津さん、木本さん。申し訳ありません、今夜の会合には出席できなくなりました。叔父の呼び出しでして、急なんですが」
 頭を下げる正三に対し、「いいよ、いいよ。局長の呼び出しでは仕方ないさ」
「そうそう。どんな話か知らんが、明日にでも聞かせてくれ」と、二人とも正三の肩を叩いた。
「いい話なら、良いのですが……。最近はお小言が多くて、まいります」
 肩を落としてため息交じりの声に、
「そりゃあ、君が可愛いからだよ」

「そうそう、百獣の王ライオンは、我が子を谷底に落とす、ってね」
「今夜の五三会は、主役抜きでやるよ」
「なあに、主役抜きの方がいい時もあるんだ。心配すんなよ、しっかり君の分まで飲み食いしてやるから」
 正三をバックアップするべく、二年先輩三人に同僚四人、正三も含めて総勢八人のグループが、深津、木本の両人によって立ち上げられていた。
正三の正を五と置き換えての、命名だった。

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