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ほっこり
梅の精(小話)
2020年03月15日
テーマ:小咄
ここはとある天満宮の梅林、その昼下がり
青空に春霞がかかり遠くの山々が白んで見えている
そよ風がまだ肌寒いが梅を愛でるにはいい頃合である
満開の紅梅白梅の枝ではメジロやウグイスが戯れている
多くの参詣者が境内を散策し、今が見頃の梅を楽しんでいる
その中に1本、柵に囲まれた伝説の飛び梅がある。
この神社の大切な御神木だ。
その飛び梅の真上に小さな雲がぽつりと浮かんでいるが、下界の人間は誰も気づかぬ小さな存在。
雲の上には手のひらに乗るほどの小さな者が4人いる
白髭を長く伸ばした仙人と弟子の精(妖精)、乙女三人衆だ
仙人「お前達は梅の精、可愛い我が弟子。よく頑張ったな。今年も綺麗な花が咲いた」
梅代「お師匠様、紅梅は皆、私が担当しました」
梅華「白梅は全部、私が咲かせましたよ」
梅実「私はこれからりっぱな実を育てます」
仙人「梅の実ができて、梅干になるまでがお前たちの役目じゃ。
気を抜くでないぞ」
3人「はい、わかりました」
仙人「われら梅の精の後は桜の精、桃の精、躑躅の精と季節に従って役割が引き継がれる慣わしじゃ。
そこでじゃが、毎年この時期に梅の精としての期末考査を実施しておる。今日はその試験をする」
梅代「えっ!お師匠様、そんな話聞いていませんよ。抜き打ち試験ですか?ひどいですぅ〜」
仙人「梅の実収穫後には卒業試験も実施するので、頑張りなさい。今回の試験範囲から出題するやもしれぬぞ」
梅実「その試験ですが、合格したら何か特典があるのですか?」
仙人「『認定梅花妖精士』の称号が与えられ、生涯、梅干・梅ゼリー食べ放題、梅酒飲み放題で好きな梅の木に精霊として宿ることができるのじゃ」
梅代「落第したらどうなりますか?」
仙人「梅の木の根元に閉じ込められる。『生きうめ(埋め)』になって花も咲かせんし空も飛べなくなるぞ」
3人「何とも恐ろしい試験じゃないですか」
梅華「梅代、梅実ちょっとこっちへおいで」
3人「ひそひそ・・・」
仙人「じゃ〜、試験を開始する」
3人「いやじゃ〜」
仙人「第1問、梅と言えば紀州南高梅が有名じゃが、紀州は今の何県かな?」
3人「大阪」「三重」「奈良」
仙人「不正解!何で近くばかりを言うんじゃ」〜(和歌山)
仙人「第2問、大阪市にはキタと呼ばれる地域がある。その代表的な街の名を答えよ」
3人「天満橋」「淀屋橋」「心斎橋」
仙人「お前らわざと間違えていないか?」〜(梅田)
仙人「第3問、『梅に○○』と言ってお似合いの鳥がいるがその鳥とは何じゃ?」
3人「コウテイペンギン」「ハゲタカ」「ヤンバルクイナ」
仙人「も〜いや、質問する気がなくなってきた」〜(ウグイス)
梅華「お師匠様、梅酒でもどうぞ」
3人で代わる代わる梅酒を大きな湯飲みについで飲ませる
仙人「『紅梅白梅図』で有名な近世の画伯はだれかな?」
3人「梅図かづお」「梅宮辰夫」「梅崎春生」
仙人「あ〜あ、(ため息)。今日は特別ゲストをお招きしておる。心してお話を聞きなさい。では、先生どうぞ〜!」〜(尾形光琳)
ポ〜ンと一人の男が小さな雲に乗って現れた。
鼻ヒゲを生やし、平安風の衣冠束帯姿をした貴族の風情。
仙人「このお方こそ、かの有名な菅原の○○殿におわす。もう、誰かわかるよな?」
梅代「菅原文太かな?」
梅華「このおっさん、何でしゃもじ持ってるんじゃ?」
梅実「鼻ヒゲが何とも卑猥で助平そうやんけ」
菅原○○「しゃもじじゃない『しゃく』でおじゃる。それに、文太にあらず。助平でもないわ。余は元右大臣、菅原道真である」
仙人「このお方こそ学問の神様、天神様と呼ばれる尊いお方にあらせられる。知っておろうが!」
梅代「知らん」
梅華「興味がありません」
梅実「ちんけなおっさんにしか見えません」
道真「ううう〜ぅ、余は帰りとうおじゃる」
仙人「道真公が京から大宰府に流された時に読まれた歌が、かの有名な
『東風吹かば にほひをこせよ梅の花 主なしとて春な忘れそ』
である。公を慕って京から大宰府まで追ってきた梅を『飛び梅』と言う。もちろん、知っているよな?」
梅代「梅の木が飛ぶなら桜の木も松の木も飛ぶよな。飛びマツ飛びマツなんちゃって〜ははは」
梅華「このおっさん、大宰府で『梅が枝餅』焼き始めた人やろ」
梅実「大宰府の梅で梅干と梅酒作って参道の売店で売っとるんと違うか?」
道真公「大宰権帥(だざいごんのそち)である」
梅代「要は左遷された役人ということでしょう」
梅華「権力闘争に負けたんだよね」
梅実「わしらこうはなりたくないな〜。勉強はできるが世渡りが下手な人間の典型的な見本ですよね」
仙人「いいかげんにせんか!『白紙に戻す遣唐使』で有名じゃが、894年に遣唐使を廃止にする英断を下されたのが、この道真公である。お前ら何も知らんな〜。試験落とすぞ〜」
道真公「わし、自信が無くなってきたからもう帰る。」
小さな雲に乗って空のかなたへ消えた。
梅代「お〜、飛んで逃げて行ったな」
梅華「打たれ弱い人だよね」
梅実「ちょっと、からかい過ぎたかな?」
仙人「3人ともわしの顔をよくも潰してくれたな〜。おい、梅酒をもっとお酌しろ!あ〜酔っ払いたいわ。情けない弟子ばかりで嘆かわしい〜とほほ・・・」
3人「どうぞどうぞ、たくさん飲んでください」
仙人「ウイッ、ヒック、えへへ・・」
かなり酔いが回ってきた
仙人「今時の若いもんときたら・・ブツブツ・・ブツブツ・・」
3人は酔いつぶれた仙人の体を飛び梅の一番高い枝に結びつけた
3人「お師匠様、試験は合格にしてくれますか?」
仙人「ウィッ!」〜酔っ払って頭はふらふら状態
梅代「お師匠様、もうじき梅の季節は終わりますよ」
梅華「そうです。桜の精と交代です。試験はこれで終わりに!」
梅実「合格でいいですね!」
3人「ご判断を!桜の季節になります。早いご決断を!」
仙人「わかった、わかった。お前らには敵(かな)うめぇ〜」
仙人「サクラ咲く〜じゃ」
3人「合格!・・ですね!」
草木には輝く季節が必ずあり、人の知らぬところで花の精、妖精、木々の霊が集い、季節の風物詩を陰ながら演出しているのである。
今、桜の精たちが白い雲に乗って、桜並木にて満開の準備をしているのかもしれない。
※「安心感」に拍手、コメント頂きありがとうございました。
医療崩壊しているお隣やイタリアに比べて日本は何とか持ちこたえているような気がします。報道に惑わされることなく自身の体を守りましょう。
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