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吾喰楽家の食卓

日本一! 

2017年04月14日 ナビトモブログ記事
テーマ:古典芸能

それにしても、歌丸師匠の人気は凄い。
国立演芸場・四月中席初日の朝のことである。
パソコンで、チケットセンターにアクセスしてみた。
良い席でなくても構わないが、空席があれば二回目を観たいと思ったからだ。
ところが、十日間、十一公演の全てのチケットが売れていた。

チケットの発売が始まったのは、三月一日である。
その時点で公表された出演者は、トリを務める桂歌丸だけだった。
勿論、ファンとすれば、それが分かれば充分で、二日目の最前列中央の席を購入した。
シルバー料金で予約が出来る電話ではなく、少し高いが、希望の席を確保し易いパソコンを使った。
一日だけでなく、もっと買っておけば良かったと、少し後悔した。

中席の歌丸師匠は、上席の林家正蔵と同じく、ネタ出しで高座を務める。
通常、寄席の定席では、事前には演題を公表しない。
今回、十日間通して『中村仲蔵』を、口演することになっている。
チケットが発売されてから、数日後に発表された出演者は、上席よりも一人少ない。
期待した通り、歌丸師匠の持ち時間は長く、中入りを務める桂米助の二倍の五十分だ。

『中村仲蔵』は、歌舞伎役者を扱った人情噺である。
名題の仲蔵は、忠臣蔵で定九郎しか役が付かず、がっかりしたが、女房の励ましで、工夫した演技で好評を得たという筋書だ。
昨年の四月上席で、正蔵師匠の『中村仲蔵』を聴いた。
翌月の中席では、林家たけ平が自身の真打昇進披露で、『中村仲蔵』を口演した。

トリの前に高座へ上がる芸人のことを、膝代わりとか、ヒザという。
立って芸をする色物を登場させることが多く、噺家とは膝の高さが異なり、客の目線が変わることから、膝代わりというらしい。
今回、俗曲の桧山うめ吉が、舞台に座蒲団を敷いて、三味線を弾きながら小唄と新内を聴かせてくれた。
高座を使わなかったのは、膝の高さを低くしたのではなく、『藤娘』を踊るためだった。
小唄の後の『藤娘』が、『中村仲蔵』を聴く気分を盛り上げてくれ、うめ吉姐さんは、ヒザの役目を見事に務めた。

『藤娘』が終わり、幕が下りた。
再び幕が上がり、高座に正座している、歌丸師匠を見て驚いた。
前回よりも更に小さく見え、鼻には酸素吸入用のビニール管が付いていた。
今回は、膝を隠すための釈台を使っていない。
最初の一言二言は、弱々しかったが、直ぐにいつもの張りのある声になった。

マクラで簡単に病状を説明し、酸素吸入器姿を詫び、直ぐに本題に入った。
初めて聞く名題に抜擢されるまでの逸話は、長講だからこそ聴けるもので、中々興味深かった。
門閥でないと、芸や人気にかかわらず、名題になれないこの世界で、仲蔵は團十郎の後ろ盾でこの地位を得た。
それを良く思わない者の嫌がらせか、当時は端役だった定九郎の役だけ与えられた。
ところが、その演技は観客に支持されて、以来、名人への道を歩み始めるのだ。

歌丸師匠が云うことを、一言も聞き洩らさないように、客は息を詰めて聴き入っている。
所々でクスグリを入れ、客は笑うことで、一息つける。
最初にダシに使われたのは、黄色いラーメン屋(木久扇師匠)、続いて、腹黒(圓楽師匠)である。
もっとも、これは或る種の気遣いだろうか。
自ら会長を務める、落語芸術協会の副会長である小遊三師匠や、若手の笑点メンバーは、登場しない。

五十分の持ち時間だが、少し長くなったようだ。
ゆっくり幕が下りる際の拍手は、今までに聞いたことが無い凄さだった。
振り絞るように、「日本一!」と、声が掛かった。
周囲の人は、興奮冷めやらぬ思いで、しばし椅子に座ったままだった。
私は、自分の顔が火照っているのが分かった。

一息ついてロビーに出ると、うめ吉姐さんが、舞台衣装で立っていた。
場内から知り合いが出て来ると、挨拶をしていた。
「写真を撮らせて下さい」と、お願いするとポーズを取ってくれた。
時間を取らせては申し訳ないので、一枚だけ撮り、写り具合の確認もせずに、礼を云って、その場を離れた。
直ぐに電車に乗る気になれず、近くの中華料理店で生ビールを飲みながら、余韻に浸った。

   *****

写真
4月12日(水)の「演題」と「うめ吉姐さん」



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おとめゆりさんへ

吾喰楽さん

おはようございます。

遊雀師匠が、マクラで「落語界の神様、いや仏様」と云っていました。

国立演芸場で歌丸師匠の高座を聴いたのは、片手では数えられなくなりました。
どれも素晴らしかったですが、今回ほど感激したことはありません。
本当に良い時間を過ごすことが出来ました。

2017/04/14 08:01:01

パトラッシュさんへ

吾喰楽さん

おはようございます。

私自身も、もう一度聞きたいと思っています。
キャンセル待ちって無いのだろうかとも、思いました。

ビールだけではクールダウン出来ず、黒霧島のオンザロックが二杯必要でした。

2017/04/14 07:55:18

お早うございます

さん

歌丸師匠、笑点の司会を交代されてからも高座にに上がられてるんですね。
以前、笑点に関するエピソードで新人さん(泰平さんや三平さん)にかけられた言葉など聞いたとき、そのお人柄に益々ファンになりました。
吾喰楽さん、素晴らしい時間を過ごされましたね。

2017/04/14 07:28:00

クールダウンにはビールが最適

パトラッシュさん

今日の吾喰楽さんのブログを読み、
国立演芸場に行ってみたい、歌丸師の噺を聞いてみたい、
うめ吉姐さんの俗曲を聞いてみたい……
と思われた読者は、少なくないと思います。(私もその一人)
作者の、興奮冷めやらぬ様子が、伝わって参りました。

2017/04/14 07:19:39

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