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「ごきぶり」
2016年06月27日
テーマ:俳句ポスト投稿
「俳句ポスト365」は、愛媛県の松山市が運営する俳句の投稿サイトだ。その第147回 2016年5月12日週の兼題の兼題は、「ごきぶり」である。
俳句集団「宇宙(そら)」のメンバー5人による「ごきぶり」に対する投稿の入選結果は、次のとおりである。
春ひさぐ濡場ごきぶり盗み見る 津軽わさお 人選
放哉やごきぶりの目のまろきこと 篠田ピンク 人選
石炭を噛りて生きし油虫 津軽ちゃう 並選
ごきぶりの油の光る恨み節 津軽まつ 並選
隕石を噛り地球へあくたむし 野々原ラピ 並選
「俳句ポスト365」では、全体3,000句程度の投句に対し、入選が「天、地、人、並」に分かれる。入選の「天、地、人、並」の内訳は、各回、天の俳句1句、地の俳句9句のほか、大体、人選の俳句200句、並選の俳句300句だ。
今回の俳句集団「宇宙(そら)」による「ごきぶり」に対する投稿の入選結果は、言わば、人選の2句は、上位210句内の句、並選の4句は、その下の300句内の句である。まあ、それでも、3,000句中の堂々の入選句だ。
それでは、3,000句中の栄えある一等賞の天の句は、どんな句か。何事も勉強の意味で、天の句及び選者の夏井いつき先生の講評を以下に掲げる。
すうすうとごきぶりひげを揺らしをり クズウジュンイチ 天選
なるほど、こりゃ「ごきぶり」っぽい動きだ!と納得して、すぐに次の句に目がいってしまったのですが、何度目か読み直し選び直していくうちに、どんどん存在感が増してきました。
「ごきぶり」なんて大嫌い!という人にとって、「ごきぶり」を観察して写生するなんて、拷問だとしか思えないでしょう(笑)。一物仕立ての難しさは、観察し続ける根気、発見できる感度、それを表現できる技術、三拍子揃わないと作品として成立しないことです。
この句の何に感心したかというと、たった一点(というと失礼ですが)、「すうすう」というオノマトペです。「ごきぶり」の髭を凝視して一句にしようと考えた時、「ひげ」の動きを誰もが観察するはずです。が、あの独特のそよぐような動きを「すうすう」とは、なかなか表現できるものではありません。オノマトペをここまで己のものにできると、爽快だろうなと思います。
清涼飲料水か、サロンパスか、どちらかといえば心地よさげなオノマトペ「すうすう」が「ごきぶり」の様子として描かれる意外性。そこにオリジナリティとリアリティが表出します。
「ごきぶり」に遭遇する。凝視する。「ごきぶり」もこちらを窺っている。「ごきぶり」は「ひげ」だけ動かす。「すうすう」と「ひげ」を揺らす。次の瞬間、逃げるのか、飛ぶのか、叩き潰されるのか。「をり」というささやかな時間を含んだ叙述が、その後の展開をあれこれと想像させるのも、さすがのテクニックです。
以上に関する津軽わさおの勉強したところを以下に掲げる。
「決定版 一億人の俳句入門 長谷川櫂」によれば、俳句には、「一物仕立て(いちぶつじたて)」と「取り合わせ」という二つの型がある。
一物仕立てとは、一つの素材(一物)を詠んで仕立てた句である。この型の句は、次のように、AはBであるという形(A=B)をとる。
行く春を近江の人とおしみける 松尾芭蕉
取り合わせとは、二つの素材を取り合わせる(組み合わせる)ことをして詠んだ句である。この型の句は、次のように、AとBという形(A+B)をとる。
旅人と我が名よばれん初しぐれ 松尾芭蕉
このうち、一物仕立ての難しさは、「観察し続ける根気、発見できる感度、それを表現できる技術、三拍子揃わないと作品として成立しないこと」である。
また、天の俳句のように、「ごきぶり」の「ひげ」の独特のそよぐような動きを「すうすう」とは、なかなか表現できるものではないそうだ。
天の俳句には、心地よさげなオノマトペ「すうすう」が「ごきぶり」の様子として描かれる意外性があり、そこにオリジナリティとリアリティが表出されているそうだ。
まさに、夏井いつき先生が常々おっしゃる「発想のオリジナリティと描写のリアリティ」に優れ、「上質な詩になっている」、ということであろう。
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