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敏洋’s 昭和の恋物語り

長編恋愛小説 〜水たまりの中の青空・第一部〜 (十二) わざと遅れて 

2015年04月21日 外部ブログ記事
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カラリと晴れ渡った当日、約束の時間から少し遅れて着いた。
十分に間に合ったのだが、わざと遅れて行った。
気が進まないのだけれど、そして仕方なくです、という意思表示のつもりだった。

玄関前で、驚いたことに父親が居た。
初めての娘のデートが気になるらしく、今日は会社を遅刻するのだと言う。
驚く彼に対し、母親が由香里を呼びに行った折り、彼に耳打ちした。

「先生、娘を頼みます。わがままを言うと思いますが、許してやってください。
それと、これは失礼なのですが、是非受け取ってください。謝礼とは別ですから」
と、封筒を彼に押しつけた。

「せんせーい、遅いよ! 待ちくたびれて、また眠っちゃったよ」
頬を膨らませて、由香里が飛んできた。
「何を言ってるの、由香里は。夕べは遅くまで起きてて、お寝坊したんでしょ。ごめんなさいね、先生」
「お母さんの、意地悪う」

彼は苦笑いしながら、
「それじゃあ、行ってきます。遅くとも、六時までには帰ってきます」
と、母親に答えた。

「えぇっ。八時だよ、せんせい。夕べ、お父さんに許してもらったんだから。
もう、肩を揉んだりして、苦労したんだから。ねえ、お父さん。そうよね、八時だよね」
「あゝ、いいとも。約束だ、ハハハ。先生、そういうことでお願いしますよ」

上機嫌の父親だった。やゃ不満そうな母親だったが、
「先生。申し訳有りませんねえ、ホントに」
と、外に出た彼を追いかけてきた。
そして、封筒を手渡した。
「あっ。今、ご主」
「先生。さあ、さあ。娘が待ってますから」
彼の声を遮るように、父親が彼の背中を押した。

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