メニュー

心 どまり

魂の行方 (二) 

2015年02月09日 ナビトモブログ記事
テーマ:言霊・メッセージ

 遠野物語は、民俗学者 柳田国男が遠野出身の学生 佐々木喜善から聞いた、遠野の人々が経験した体験談を119編纏めた物語です。

 この物語に登場するのは、オクナイサマやオシラスサマなどの神様や河童・雪女・座敷童などの妖怪や幽霊だけではありません。
主人公は村人達、神様や妖怪達に出くわした、当時実在した人達が、自ら語った体験談集なのです。

 明治26(1893)年 柳田(19歳)は、東京の第一高等中学校(現 東京大学教養学部)に進学します。

 勉強一筋だった彼が、恋をしました。
お相手は、七つ年下のいね子。
いね子は、柳田の知り合いの裁縫教室に通って来ていた美しい女性でした。しかし、その恋は柳田の片思い。
思いを告げる事も出来ず、三年もの長い間、恋心を抱き続けていたのです。

『恋が実らぬ男
 死んで鶯となり
 愛する少女のいる窓辺に行って鳴いた
 少女が見つけても
 逃げようともせず捕えられ
 籠の中で飼われることになった。
            「籠の鶯」より』

 「籠の鶯」は、愛する男の魂が鶯に成って、少女に飼ってもらうと言う、とてもロマンチックな内容です。
愛する人を、遠くから眺める事しか出来ない柳田。
せめて魂だけでも、愛する人の傍にいる事を想像して、熱い恋心を慰めていたのです。

 明治29(1896)年、柳田の父と母が相次いで急死しました。そして、更なる悲劇が!
想いを寄せ続けていたいね子が、結核を患い遠い親戚の家で療養する事になったのです。

 間もなく、いね子の死を人伝に知らされた柳田は、友人田山花袋(カタイ)に宛てた手紙の中でこう読んでいます。

『別れては、山の一重も悲しきに
 今は、世をさえ隔てつるかな。』

 別の世に逝ってしまったいね子に、もう逢う事は出来ない。柳田は打ちのめされ、考えあぐねた後、真剣に悩むようになりました。

『死んだ人の魂は、何処に行くのか?』

 
 帝京大学 藤井隆至教授は、歴史秘話ヒストリアの中でこう述べています。

「好きだった女性が、亡く成ってしまう。
 その女性は、今何処で何をしているのか?
 遠い所に逝ってしまったのか、それとも
 自分の近くにいるのか、と言う問題だと思います。
 柳田としては、魂は“自分の傍にいて欲しい”
 と言う願望を持っていた。」


 農商務省に入省し、役人として働いていた柳田は、明治41(1908)年 遠野出身の学生 佐々木喜善と知り合います。

 佐々木は、故郷遠野の人々が目撃したと言う妖怪や神様の物語を話します。
それは、柳田が長年抱いていた疑問と、想いに不思議と重なる物語でした。
更に佐々木は、死んだ者の魂が何処に行くのか、具体的な物語も話しました。

 
 第九十七話 『魂の行方』

 ある時、菊池松之亟(マツノジョウ)と言う男が重い病を患いました。彼がふと気付くと、体が空中に飛び上り、やがて先祖代々の墓がある菩提寺にやって来ました。
 そこで出逢ったのは、以前亡くなった息子でした。
遠い世界に行ってしまったと思っていた息子の魂は、以外にも直ぐ近くの菩提寺にいたのです。
 「とっつあん、今来てはだめだ!」

 息子から帰れと言われ、引き返した所で、ようやく目を覚ましました。

『死んだ者の魂は、遠い所に行ってしまうのではなく、極身近にいる。』

 帝京大学 藤井隆至教授曰く
「非常に喜んだと思います。
 これまで柳田は、自分自身の問題として『魂の行方』を考え
 ていた。
 しかし、自分と同じ考えが、岩手県の遠野にもある。
 これは、自分だけの考えではない。日本人全体に及ぶ、
 大きな問題なのだと位置付けたのだと思います。」

 佐々木喜善の話を聞き続けた柳田は、二年後の明治43(1910)年36歳の時に『遠野物語』を出版します。

『遠野物語』は、愛する人の魂を探し続けた、柳田国男の悲しみから生まれた作品でもあるのです。

             出典 遠野物語 柳田国男著
             参考・引用 歴史秘話ヒストリア    

 
 



拍手する


コメントをするにはログインが必要です

ばあばと孫

さん

「魂の行方」読ませたいただきました。今度東京にいるうちの孫(5年生)にも「遠野物語」を送って
やろうと思っています。私の「あしあと」に拍手いただきありがとうございました。

2015/03/17 14:19:28

遠野物語

みのりさん

良花さん

遠野物語1度読んでみたくなりました。

2015/03/10 18:23:34

こんばんは

さん

拍手感謝です。私も歴史ヒストリアを見ました。私の父が突然亡くなったとき、息子が言ったのです。『お母さんお爺ちゃん暫しのお別れ』と皆の前で言ったのです。私は、息子の言葉に何故かは知りませんが?『そうやね暫しのお別れやね。』納得した次第です。

2015/03/02 20:34:31

柳田国男さん

のびたさん

遠野の町はツアーで添乗し 民話も聴いて来ました
島崎藤村の名曲 椰子の実 に柳田国男さんが関わっていますね
柳田国男さんが伊良湖に滞在した時に 浜辺に流れ着いた椰子の実をみつけました
これを聴いた藤村が叙情溢れる詩に仕上げました
皆さんのリクエストが多い愛唱歌です
日本民族が南方より来たと言う彼の学説の論拠にもなったでしょう
千の風になって この歌も現代の名曲です
亡くなった者の魂は いつも身近に居ますよと言う
亡くなられた方から現世への鎮魂歌ですね

2015/02/09 11:05:09

魂ってあるのでしょうか?

さん

とてもロマンティックな動機から、「遠野物語」が生まれたのですね。
結構、恐ろしい話しが多かったようにも思うのですが・・・
と、言う私も断片的にしか知りません。
今度、全編読んでみます。

魂の世界があったら素敵ですね。
あっ!一つ、短編のネタが浮かびました。
メモしておきましょう!(笑)

脳科学では、人がいよいよ亡くなる時に、脳内麻薬が、物凄く放散されるそうです。
痛みも苦しみも、死への恐怖も消えると言いますが、それも、仮説でしかないでしょうね?
だって、亡くなってから論文は書けませんから。

私は、魂の存在を信じます。
その方が、亡くなった愛する人の近くにいられるから。

2015/02/09 07:46:05

PR





上部へ