＋＋＋女の苦労を背負うのは荷が重いので、非礼を詫
びてから、最終的に丁寧にお断りした。

七．リッツ・カールトンの女

　三通目は、矢張り若くて、隣市西宮市の二十八の女
からであった：

「私の彼氏は今ロンドンへ赴任中のエリートよ。一年
後に帰国したら結婚する予定になっているの、いいで
しょ？　だから、幸せ！　でも、彼氏の帰国を待つ日
々が退屈だし、自分も最後の青春を楽しみたい。私の
青春はあと一年しかないわ。若い女に、これは残酷。
だから、協力してよ。

「貴方は会社の経営者で、お歳から見ても「清濁併せ
呑む分別」があると思う。「女の気持」も柔軟に判っ
てくれそうに思う。

「彼が帰国するまでの期間限定で、後腐れの無いお付
き合いをしたい。貴方も浮気を楽しめるんだし、ラブ
ラブを希望。なお、私はスリラー映画００７
（＝Mission Impossible）が好きよ」

　「清濁併せ呑む」とか「分別がある」なんて、やっ
ぱりここでも「五十八の歳の功」が威力を発揮した。
結婚前のちょっとした寄り道に、不倫をしたいから協
力してくれ、アンタも（柔軟性のある）悪人だろうか
らーーー、という訳である。

　続いて二度目のメールで、女は具体的に希望を述
べた：

「彼はロンドンで地球の裏側だから、絶対にバレる気
遣いは無い。近づくクリスマス のデートに自分は宿泊
もＯＫ。（味で知られた高級なレストランの名を挙
げて）美味しいご馳走も食べたいし、ニ００五年産の
モーゼルワインが一番好きだ、泊まるならホテル・リ
ッツカールトン大阪のスイートが絶対いいーーー。お
風呂に、バラの花びらを一杯に浮かべてよね。無論、
色は真っ赤！」

　一流ホテルでお姫様ゴッコをしようと言うのだか
ら、「たかる気」満々である。
　アハハーー、こういうのを読むと老後の人生が楽し
くなってしまう。ワインの銘柄を含めて好みが実に具
体的だから、脱いだ時には体位と運転の角度まで、あ
れこれ指定されそうだ。

　「後腐れのない」お友達として、五十八は「分別の
ある」魅力的なパパさんと映るらしい。悪女好みの私
にぴったりのパートナーに思えた。
（つづく）