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作品名 アカンタレの話(11) 評価 評価(1)
タイトル アカンタレの話(11)
投稿者 比呂よし 投稿日 2014/01/06 07:59:42

+++やたらに足を速める女と追いすがる私と、山
道を二人で追いかけっこをしているようなものであ
る。 学校の教室で普段物静かにしている温和しい
印象の姿と、同じ女とはとても思えなかった。

11.鬼さん
 女に続いて駆け上がるようにして、中腹にある休
憩所まで来た。無論そこに茶店は無いし、誰も人は
居ない。ニ十平米ほどのちょっとした広場になって
いて、大抵のハイカーがここで一服し、眼下に広が
る海を遠望する格好の場所である。

 遠目に潮見台町の私の家の一部も見えなくはない。
ここまで登ってから下山する人も多く、私が父親に
連れられて登る最高はここまでである。けれども、
そこで一休みするという誰もがやる常識を、女は無
視した。

 女は歩調をいささかも緩めず休憩所を速足で突っ
切り、直ぐ先にある谷へ架かる幅三十センチほどの
細い丸木橋へ、差し掛かっていた。「休もう」と声
を掛けて呼び戻すのはためらわれた。十米ほども先
へ進んでいる女に余分な労力を強いるには、未だ友
達になったばかりという遠慮があった。

 それに、こんな処で数刻でもぐずぐずしておれば
一層女から立ち遅れると感じたし、愚図と見られる
のが嫌だったから、声が出なかったのである。人が
変わったように、硬い表情でずんずん先を歩く女の
勢いに私は圧倒されていた。

 私も続いて、おっかなびっくり細い丸木橋を渡っ
た。手を掛けないとすべって登れない岩山に行き当
たった時、女がスカートを翻して軽々と登った。下
に続く私の目に女の白い太ももが眩しく映ったが、
自分の体が辛くて、流石に男の「血が騒ぐ」どころ
ではなかった。

 更に上へ上へと未知な道を、女は大股の歩調で登
り続けた。私との距離が開き勝ちになり、女がふと
後ろを振り返ると、私の姿が無いという形を繰り返
すようになった。

 私を見失わない為に、女は対策を考えたらしい:坂
が急な処では、後ろを振り返って体の正面をこっちへ
向け、私にしっかり目を据えたまま、自分は後ろへ後
ろへ後ずさりする姿勢で、登り始めたのである。「鬼
さん、こちら」みたいであるが、目は少しも笑わなか
った。
 そんな歩き方をしても、私より速い。恰も後ろに眼
があるみたいに、何処に跳び越すべき石の突起があ
り、地面の凹みがあるのか、女は良く知っていた。

 女が後ろ向きに歩くのは、こっちを見守るというよ
りも、途中で私が逃げ戻りはせぬかと監視している風
に感じた。目をじっと私に当てたまま女の顔はニコリ
ともせず、一言も言葉を発しなかった。背も低く体力
に自信が無かった私は息が弾み、次第に過酷な山登り
になっていった。
 (つづく)

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