+++そうまで言われちゃ、なに「干物」だって黙
ってやしなかったさ:「使えるかどうか、どう、今
晩試してみる!?」
(6)
さて、同じマッサージの勉強をするにしても、女
達と違って私にはサロンなどを経営する気は無い。
けれども、何時ものクセで、そんな女達を経営者の
目で眺めてしまう。なお、変に警戒されても困るか
ら、入学当初から、私が会社を経営しているのは内
緒にしてある。
商売をする上で、まず考えるのは需要と供給であ
る。街中の、特に女性相手のマッサージサロンのマ
ーケット(=需要)がどれほどのものか、ちょっと
気になる。広告などでアロママッサージ・アロマセ
ラピー・足裏マッサージ・オイルマッサージ・癒し
のリラクゼーション・ツボマッサージなど、これら
に類した言葉が巷に溢れている。
更には、「美顔専門マッサージ」というパーツだ
けに限った専門の店もあるが、それらの店も繁盛の
具合によっては、直ぐにでも我々が練習中のボデイ
マッサージへと移行可能な訳だ。
こう考えると競争相手に事欠かないから、マッサ
ージサロン経営の実態はいよいよ厳しいのじゃない
か、と他人(ひと)事ながら私は気に掛かる。
商売の性質上、コストダウンとか値下げ競争はサ
ロン経営にそぐわない。特に女性客は雰囲気を大切
にするから、感じの良い店を作るとなると開業資金
も大変だ。こんな風に考えて、独立開業に私はネガ
テイブな気持を持っている。
このような下地が私の中にあったせいか、休憩時
間のお茶を飲みながらのおしゃべりで、教室の片隅
に座っていた私は、何気なくこんな感想を漏らした:
「開店を計画する前に、複数の店で自分の体でマ
ッサージを受けて見る事だろうね。繁盛している綺
麗な店だけに目が行き勝ちだけれど、流行って無さ
そうな小振りの店を選んで、事情を調べるのも大事
だと思うよ。
「どうして繁盛しないのか、店を改装が出来ない
訳は何か。サービスや技術か、過当競争か、立地
か。そこへ1−2回通って見れば「流行らない理由」
は判ると思うがね。
「そんな店は経営者とマッサージ師は兼任だから、
褒めるのが大切さ。マッサージを受けながら、こう
云うんだ:
「お宅のマッサージは気持ち良くて素敵だわ、気
分もほっとする。前回もやって貰ったけれど、夕方
や土・日は込み合うんでしょうね? 気持ち良いか
ら、私もお店を持ちたくなるわあ! 親に出資を頼
もうかしら?
「実はこれが誘導尋問でね。 流行ってなさそうな
店がこうベタ褒めされたら、業界の動きや苦しい本
音を、店主からため息混じりに聴けると思うよ。店
を持つのにきっと役立つと思うなあーー。」
「キャハハー」の女達が、水を打ったようにしん
となった。全員が上座から私の顔をしげしげと見下
ろした。
(干物だと思っていたのにーー、案外湿り気があ
る。ひょっとしたら未だ繁殖力もあるかもーー)と
いう色が、女達の顔にありありと浮かんでいた。ど
うやら期せずして、私は「キャハハー」の急所を突
いたらしい。
(つづく)
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