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作品名 クワバラの話(5) 評価 評価(1)
タイトル クワバラの話(5)
投稿者 比呂よし 投稿日 2013/12/23 11:01:41

++++生身の彼女に会いたいとは思わないけれど
も、今どんな字を書いているのかなと思うと、達筆
だけはもう一度見てみたい気がする。

5.PDFファイル

 最近ではワープロしたものが多いが、人事募集で
美しい字で手書きされた、履歴書を受け取る時がた
まにある。字を眺めただけで「一体どんな人だろ
うーーー」と、文字の裏から清々しい人柄が偲ばれ
る気がする。この意味では、字の上手な人は確かに
二割は得である。

 私の死んだ父親はなかなか字が上手であった。見
る機会は殆どなかったが、年に一度書く賀状の文字
は上手だと思った記憶がある。父親は、実家が貧し
く少年時代を京都の寺に預けられて過ごしたから、
強制的に習字をさせられた為だろうか。

 次に、身内だからと思ってつい最後になったが、
実は私の配偶者も字が上手である。だから今の私の
身近な人なら、先の女事務員と配偶者と父親が、上
手の三筆になるが、父親はもう居ないから生きてい
るのに限るなら、今の所先の女性二人に勝る上手は
居ない。20数年の社歴を振り返っても、相当する
程の人は居なかったようだ。

 女事務員の字の上手さは既に書いたが、他方で配
偶者の字は、事務員程には達筆とは言えない。が、
彼女は一般の主婦に比べて、私と共に遥かに多くの
山あり谷ありの苦労の人生を歩んで来たから、それ
を反映してか、字が練れて手に溶かし込まれたよう
な雰囲気がある。

 しかも、正確で読み易いようにという配慮が滲み
出ていて、事務員のとは異なった実用的な美しさが
ある。特に数字は、読み間違える可能性のあるよう
書き方をしない。

 配偶者が手書きしたもの、その殆どは仕事上で作
成した社員達向けの連絡文や通知文書である。実は
これらの中から幾つかスキャナしてPDF化し、私は
PCに保存している。時々PC画面に写し出して、「美
しい!」とうなりながら、「一人書展」の積もりで
鑑賞している。そんな時、先の筒井さんの場合と同
じように、字が人柄とぴったり寄り添って一体に見
える。

 けれども、世間で流行りのストーカ行為と間違え
られてはいけないから、この「一人書展」の趣味を
誰にも内緒にしている。毎日顔を合わせているし、
大抵毎晩本人の65のしなびたお尻もマッサージで
触ったりしているのだから、私の「(ひそかな)
「字の収集」癖を読者もヘンだと思うかも知れない。
しかし、実はそれ程ヘンではない。何故なら:

 美術館や博物館で展示物を眺めるとき、事前に歴
史や時代背景を知っておれば、味わいが一層深くな
るのは良く経験する処ではあるまいか。私は配偶者
の歴史と時代背景を既に熟知している訳になるから、
その人物が書く字を眺めるなら、一層深く芸術とし
て鑑賞出来るというものではないか? さすれば、
純粋に芸術を楽しんでいる理屈になる。

 先の上手な字を書く女事務員は40であるが、容
色は衰えず今もってなかなかの美人である。にも拘
らずーーーと強調したいが、彼女の書いた文字を同
じようにPCに取り込んで保存し眺めて見ようとい
う、「そこまでの」気持ちは何故か私には起きな
い。美人な彼女に対して、これは確かに不公平だと
いう気が自分でもする。

 これは矢張り、本当に「上手な美しい字」とは、
墨やペンの濃淡や線の曲がり具合だけでなくて、ま
た展示会の構えた書道でもない。書き手の情感と魂
とが渾然一体になった実用的なもの、それが文字だ
と私が無意識に考えているせいかと思う。

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