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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (三百八十七) 

2023年09月06日 外部ブログ記事
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「いっそ、専属の看護婦をつけてほしいわ」 うしろろから、悲痛なさけびにも似たこえがもれた。もちろんそんなことがまかりとおるなどとは、思っていない。しかし皆がみな、大きくうなずいた。「そうね、それもありかもね。婦長の権限でやれるかしらねえ。それに、誰がつくの? 新米さんでは心もとないし。あなたたちベテランを付けるのもどうかと思うし」 ざれ言に近い提案に婦長が反応するとは、だれも思っていなかった。婦長としては本気でとりあげるつもりはなく、ただのガス抜きとして口にしただけのことだった。
 婦長の真意をはかりかねて、たがいの顔を見あっている看護婦たちに、「あのお、ちょっとご相談があるのですけれど……」と、竹田の母であるタキがやってきた。「身内じゃないんですが、妊婦さんのつきそいなんぞをやらせていただけるものでしょうか? 御手洗小夜子さんのつきそいを、旦那さまの社長さんからたのまれたのですが」 つきそい看護婦の派遣を、完全看護をうたっている病院としては、おもてだっては認めるわけにはいかない。しかも看護婦の資格をもっていないという。いっせいに婦長に視線があつまった。すこしの沈黙後に、「このさい、規則はわすれましょう。ただし、この方の手に負えないじたいとなったならば、すみやかにでむくこと。いいですね、みなさん」と、その日からのつきそいと決まった。
 一昨日のこと見舞いに訪れたさいに、柳眉をあげて不平をまくしたてる小夜子を見たタキだった。小夜子のわがままだとみえるのだが、初めての出産ではやむなしかとおもえぬでもない。ぐちを聞いてやれば多少は気持ちもおさまるかと思ったが、話をしている内に小夜子の気が高ぶりはじめて、その剣幕はとどまることをしらない。そしてとうとう、赤子を起こしてしまった。火の付いたように泣き叫ぶ赤子に、小夜子が病気のせいだとわめき立てた。「小夜子さん、落ち着いて。お母さんの怒ったこえがね、赤ちゃんを不安にさせているのよ。大丈夫、大丈夫だから。小夜子さんが落ち着けば、赤ちゃんも泣き止みますよ。さあ、ばーばが抱っこしてあげましょうね。はいはい、だいじょーぶですよ。いい子ですねえ、武士ちゃんは。はいはい、おそとを見ましょうか。ほーら、あおいおそらですよ。しろい雲さんが、ぽかりぽかりと浮かんでますねえ。はいはい、見えますかあ?」 むろん、まだ見えるはずもない。しかしそのおだやかな語りくちと暖かいふところに抱かれたことで、泣きさけんでいた赤子がすやすやと眠りにはいっていった。
「ね、小夜子さん。赤ちゃんって、お母さんのきもちがわかるんですよ。たーくさんの愛情をね、いっぱいいっぱいあげるとね、こんなにきもちよさようにねむるんですよ。赤ちゃんが泣くときはね、お腹が空いたときとおしめがぬれたときぐらいですからね。こうしてやさしくあやしてあげると、安心してねむるんですよ」 いとも簡単に泣き叫ぶ赤子をあやしたタキが、小夜子には後光がさして見えた。菩薩さまに見えた。「お母さん……」。消えいるような小声で、小夜子が言う。

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