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敏洋’s 昭和の恋物語り

青春群像 ご め ん ね…… 問屋街(八) 

2023年06月18日 外部ブログ記事
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 そののちに麗子さんからの情報で、熊本の親もとをはなれての集団就職で、年齢は十六歳だということがわかった。声の小さな子で、いつもあいての耳元で話しかけている。まるで内緒ばなしをしているように見えてしまう。まだ方言がとれずにいたせいらしい。はじめの職場では人間関係がうまくいかず、在籍している定時制高校のあっせんで増田商店にきたということだった。
 とにかく万事においてひかえめで、出しゃばるということを知らない。どういう経過なのかはわからないが社長宅で寝泊まりしていて、麗子さんがお姉さんがわりとして何やかやと世話をしているということだ。? そして当日のことだ。ロープウェイでと言いはるぼくに対して、三人の女性は歩くと言いいり、鶯谷にある山道からのぼることになってしまった。ぶつぶつとくぢるぼくに対して「情けない人ですね、それでも男ですか」と言いはなったのは、だれあろう彼女だった。
 が、ものの三十分と経たぬうちに音をあげたのも彼女だった。当初はいつもの小声でぼやいていたが、とつぜんに金切り声をあげた。ことばとも叫びごえともつかぬ声を張りあげた。まっ赤になった足首を指さして涙ながらにうったえた。すぐさまに麗子さんが処置をしたけれども、彼女の叫びはおさまらずつづいた。
「せからしか! だまらんかい」。思わず大声をだしてしまった。キョトンとする彼女を見たふたりが大笑いをし、彼女もまた笑いごえをあげた。ふだんはつかわない博多弁がでてしまった。しかしそのことが、その場をなごませる結果となった。「おんぶしてもらなさい」と言われ、それはいやということで、ぼくが彼女の手を引いたり後ろから押したりと、遊び半分の行程となり、やっとの思いで山頂の岐阜城にたどりついた。
たどり着いた、と簡単にいったけれども、そのじつは大変な難行――ぼくにとってはうれしいことでもあったんだけど――となった。手を引いて、ということは、たがいの手をにぎり合うということであり触れるということだ。女性の手にふれるなどはじめてのことで、すぐに手がじっとりと汗をかいてしまった。「ごめんね」とハンカチで汗をふいてると、「この子は純情なのよ」と貴子がよけいなことを――いや嬉しいことばか――言う。彼女もはじめてらしく、顔はもちろんのこと耳たぶまでもまっ赤になった。それではと後ろから押すことにしたものの、こんどはどこに手を当てれば良いのかと、これまた大騒ぎとなった。事ほどさように付き添いのふたりがわれわれをはやし立てるものだから、なにをどうしていいやら分からなくなってしまった。しかしそれらのことがきっかけで、ぼくと彼女のきょりが一気にちぢまることになった。

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