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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (三百五十五) 

2023年05月25日 外部ブログ記事
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 勝子だけでなく、自責の念にかられつづけていた母親。遊び感覚でかわした接吻を近所のおとなに見とがめられて、田舎を追いだされたふたりだった。ひと間の部屋に、生きていくためだけに同居をはじめたはずだった。駆け落ちのふたりには、世間の風はつめたい。早々に仕事を見つけなければならないし、落ち着く居所も決めなけなければならない。手持ちの金員が底をつきかけたときに、「住み込み可。夫婦者も可」という張り紙を見つけることができた。「身元引受人は……いないだろうねえ」。ふたりの姿を舐めまわすように、上から下まで見られた。 縮こまりながら土下座せんばかりに腰をおるふたりに、「事情があるんだろうから」と、パチンコ店での仕事が見つかった。身ごもっていたことを知らなかったとはいえ、浴びるように酒を飲む生活がはじまった。
“なんで姉さんだけなんだ”。恨みに思うこともあった竹田。病弱な姉ゆえのことと分かってはいたが、なにかにつけて姉を優先する母親だった。たまに届けられる隣家からのたったひとつのたまごが、姉の膳の上にのっている。白いご飯のなかに、いや中央にたて線のある麦ごはんを主とした茶碗のなかに、こんもりとした黄色がある。どんなに竹田が欲してもまわってこないたまごがのっていた。下を向いてしょっぱい麦飯を口にしていた竹田の恨みごころが、その思いを抱いたことが、いまでも苦しめている。そんなふたりすらも救ってくれたのが、誰あろうこの小夜子なのだ。“この方のためならなんでもできる、代わりに死ぬことだっていとわない”。そんな思いでいる竹田だった。
 小夜子にしても、武蔵のいない自宅にもどったところで、千勢をあいてに料理談義ぐらいがせきのやまなのだ。正直のところ、もう料理については興味が失せている。いや、おさんどんは千勢に、と決めてしまった。どころか家事全般をまかせる――というより、投げ出してしまった。なにをどうあがこうと、千勢には勝てぬと思いしらされた。「勝ち負けじゃないぞ、気持ちだ、きもちだよ」。武蔵がいう。慰められた。そう思ってしまう小夜子で、ならばいっそそれには手を出さぬほうが、小夜子の精神状態にはいい。なまじ張り合おうとするから、また千勢を追い出したくなるのだ。武蔵にほめられるのは己だけでいい、いや、そうでなければならない、気が済まないのだ。
「もう。竹田ったら、そればっかり。いいのよ、きょうは。そうだわ、竹田。お食事していきましょう。あたしのわがままに付き合わせてばかりだものね。お礼がわりの食事をしましょ。うーん、なにがいいかしら。武蔵はお寿司専門みたいだから、お肉料理にしましょうね。お肉といえば、当然にビフテキよね。武蔵といつも行くお店があるのよ」「でも、小夜子奥さま。わたしはお腹もへっていませんし、、、」「いいの! なんなの! きょうにかぎってどうして逆らうの。武蔵になにかいわれたの? そう、加藤専務ね。あの人、きらい。なにかと小言ばっかりいって」 すれ違う人びとが、ぺこぺこと頭を下げつづける竹田に蔑視の視線をむける。こびへつらうだけの竹田を感じ、そしてまた武蔵におもねるだけの竹田だと小夜子には見えてきた。

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