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敏洋’s 昭和の恋物語り

歴史異聞シリーズ  鼠小僧次郎吉 〜猿と猿回し〜 (二)おきやがれ! 

2023年01月16日 外部ブログ記事
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 七、八歳の子どもがかけてくる。手に、その手の平よりも大きいリンゴを、さも大事そうにかかえて。どろだらけの顔に、みょうに目だけをギョロつかせている。幼いころの次郎吉そのものだった。次郎吉の心に、ムクムクとわき上がるものがあった。
「よしよし、ここまで来い。おじさんが助けてやる」次郎吉はそう言いながら、手招きした。子どもは一瞬たじろいだが、ニッコリと笑うと、目を輝かせて次郎吉のうしろにかくれた。
その後から、八百屋のおやじらしい男が、フーフーと息をきらして走ってきた。「さあ、そのリンゴを返せ!」と、まず後ろの子どもをにらみ付け、つづいて次郎吉に「あんた、この小僧っ子の兄貴かね? こまるじゃないか、えーっ!」と、かみついてきた。
「おきやがれ! としはのいかねえガキじゃねえか。リンゴのひとつやふたつのことで、おおぎょうなことだぜ」と、怒鳴りつけた。「いくらでえ、これ。これだけあれば足りるだろう、このとうへんぼくが!」と、一朱銀をほおり投げた。
八百屋のおやじは、その出しっぷりと次郎吉の着流しの身なりから、“こりゃ、ごろつきだ”と、急に下手に出た。地面に放り投げられた銭をひろうと、「へっへっへ。いえ、そんなにはしませんやね。お兄さん、釣り銭をもってませんので、へえ」と、へりくだった。
「おきやがれ! つりなんぞいらねえよ。とっとと、帰りな。おっと、子どもに『まいどありい!』のひとことも言ってくんな」銭を見てからのおやじの豹変ぶりには腹にすえかねたが、往来の人だかりが気になることもあり、手を上げることはしなかった。
「ぼっちゃん、ありがとさんで」と、八百屋のおやじは次郎吉の剣幕に恐れをなして、ペコペコと頭を下げつつ走りさった。「さあ、もう大丈夫だ。それ、そいつをくいな。そうだ、こづかいをやるから、はらがへったら団子でもかいな」
次郎吉は、一朱銀二枚を子どもの手の平に入れてやった。「ありがとう、おじさん。このリンゴ、おじさんにやるよ。おれ、もうはらいっぱいだ」まぶしそうに次郎吉を見上げると半分食べ残しのリンゴを差しだした。
そして、次郎吉の手の中に入れるやいなや、一目散にかけだした。次郎吉はにが笑いをしながら、手の中のリンゴのかわいらしい歯形を見つめた。「おれっちのような、はんぱもんになるんじゃねぇぞ」。小さくなった子どもの後ろ姿につぶやいた。
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