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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (二百六十六) 

2022年10月04日 外部ブログ記事
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「お帰りなさい、女将さん。ああ、お客さまですか?」 玄関先を掃除中の老人が、手を止めて女将を見る。「治平さん、ただいま。旦那さまがね、この雨に駅舎で立ち往生なさっておいでだったの。でも、恵みの雨でした。こうしてお客さまになっていただけたのだから」 奥から手ぬぐいを持って、若い仲居がドタドタと走ってきた。「これこれ、おたまちゃん。そんな走ってはいけませんよ。申し訳ありません、躾がなっておりませんで。「うん、なになに。若いんだ、仕方ないですよ」 口ではそう言いつつも、心内では宿選びに失敗したかと舌打ちした。“どうする? 引き返すか? ここで上がってしまえば、戻れないぞ”逡巡のきもち湧きははしたが、ぬいのえりあしの色香が思い出された。
 若い仲居が、ぼーっと立ちすくんでしまった。この地ではなかなかに出会うことのない美男子の武蔵だ。ぬいの目にも、それは同じだ。しかも上客だ。仕事関連とあれば、連泊になるに違いない。何としても常連客にしたいと考えている。色気で釣るつもりはないけれども、表情が柔らかくなるのは当たり前だ。つい、艶めかしい目つきで、武蔵を見てしまう。熱海の女将とは違った雰囲気をかもし出している女将のぬいに、武蔵の虫がざわざわとさわぎ始めた。しかし何といっても、新婚だ。いかな武蔵でも、しばらくは大人しくしていようと思っている。
“しかしだ。女の方から言い寄ってくれば、そいつは別だな。据え膳食わぬは、男の恥だ。女に恥をかかせるわけにはいかんぞ”などと、勝手なことを思いめぐらせている。部屋に落ち着いた武蔵。心づけを仲居に渡しながら、早速に声をかけた。「女将さんは忙しいだろうかな? 手が空いていれば、来てもらいたいんだが」「まあ、こんなにも。ありがとうございます。女将さんですね? すぐにも来させますので、少々お待ちください。他に何かご用がありましたら、お声をおかけください。何はおいても、馳せ参じますので。」と、満面に笑みを浮かべている。
 女将の情夫かとぞんざいな態度を見せていたが、心づけを手にした途端に豹変する仲居だ。“ふっ、現金な女だ。ま、田舎女なんてこんなものだろうさ。しかし好きだぜ、俺は。正直で良いや。女は賢くなくても良いのさ、色香もいらねえ。男が女に求めるものは、何といっても安らぎだ。ほっとできる時間を作ってくれる女がいい。外に女を囲うのは、一にも二にも、その為だわさ。女房には求められねえアホさ加減を、男は求めるんだから。といって、そんな女を女房にはできない。対外的にまずい。妻を娶らば才たけて、見目麗しく情けあれ、だ”と、ひとりにやつく武蔵だ。

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