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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 第二部 (二百五十七) 

2022年07月12日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



 大粒の涙が、拭いても拭いても溢れ出てくる。幸恵のハンカチが使い物にならなくなってしまい、小夜子の差し出すハンカチもすぐに、涙でぐしょぐしょになってしまった。「そんなことになっていますの、それは大変ね。で、お母さまの具合はいかがですの? 大事にならなければおよろしいのだけれど。でも、正三さんも……。男は、良き伴侶を得てこそ、大仕事を成しとげることができますものね。そんな女性をお選びになって、ご出世の道を自らお断ちになるとは。正三さんらしくありませんわね。でも最後にお会いした時は、堂々としてらしたのに。そうね、きっと一時の気の迷いですわよ。そのうちに、お目が醒められますわ。大丈夫! 過去のこととはいえ、あたくしが選んだ正三さんですもの」
 勝ち誇ったように幸恵を見下ろす小夜子がいた。それみたことか! と目を細める小夜子がいた。しかし溜飲の下がる思いとともに、一度は生涯の伴侶にと思った男の凋落をよしとせぬ思いもわいてきた。「でも…。正直のところ、小夜子さまにお恨みの思いもあるのです。いえ、分かっております。兄が悪いのでございます、すべて。ほんのひと言でも、あたしに小夜子さまへの伝言をと言ってくれれば、と思うのです。あたしがそのことに気が付いていれば、と悔やまれてなりません。でも、でも、もう少し待っていただいていれば、と思ってしまうのです」
「そうね、それもありでしたわね。幸恵さんの仰るとおり、もう少し待ってさしあげれば良かったのかも。でもね、それは今だからこそ言えることなのじゃないかしら。あの時『いついつまで、待っていてください』とご連絡があれば、あたくしも待っていたかも。でも、お分かりになる? あの頃の、あたくしのこころ細い気持ちが。ひとりなの、たったひとりなの。誰を頼ることも出来ない地で、たったひとりだったの。そんなときに手をさしのべてくれたのが、タケゾーだったの。でもね、待ったのよ。タケゾーの思いは知っていました。でもそれを押し止めて、タケゾーには『約束した人がいます』。そう宣言して、足長おじさんの役目を押し付けていたの。お嬢さま育ちの幸恵さんにはお分かりにならないでしょうね」
 夕闇がふたりをつつみ始めた。道路に目をやると、ひとつふたつと街灯がともっていく。まだ支度の途中であること、そして茂作をひとりにしていることが、気になり始めた。しかし思いつめた幸恵を見ていると、むげな態度も取りづらくなっていた。「申し訳ありません。小夜子さまのお立場も考えずに、勝手なことを申しました。もうお会いすることもできないと存じますが、どうぞお元気で」 深々と腰をまげる幸恵だが、その態度とはうらはらに、一向に立ち去ろうとはしない。

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