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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (二百五十四) 

2022年07月06日 外部ブログ記事
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 小夜子詣でのとなりで、同じようにいやそれ以上に、茂作詣でがあった。武蔵が残した言葉は、小夜子の思う以上に大きかった。「茂作さんに言ってくだされば結構です」。このひと言で、茂作の存在感がぐんと増した。「どんなことでも、茂作さぁに言えばええ。村長に頼むよりなんぼか確かじゃて」 村の角々でこんな声が聞かれた。床に就いている小夜子の耳に、秋の夜長の虫たちほどの声声声が聞こえてくる。
「娘の進学なんじゃけれど」「家の前の道が、雨が降るたんびにぬかるんで」「ばばの家がいたんでしもうて、というて借りるあてもないし」 そして帰り際には必ず「小夜子嬢さんに、ちょこっと挨拶を」と、付け加えていく。今ほど、武蔵の妻となった実感を感じることはない。ひしひしと、感じさせられている。
 武蔵の財力と権力に群がってくる村人たち。それらは皆、かつては茂作を小ばかにしていた者たちだ。 曰く。「娘を売った男」「娘を人身御供にした男」 やっかみの裏返しの言葉ではあったにせよ、唾棄すべき男と断じた村人たちだ。小夜子の知る日々の武蔵は、他人より少し目端の利くだけの男だ。しかしこうして引きも切らずに訪れる村人たちを見るにつけて、武蔵の持つ金の魔力とその威力を改めて確認した。
 宴から四日も経つと、さすがに小夜子を訪ねてくる者もいなくなった。小夜子にしても、田舎での退屈な日にそろそろ耐えられなくなってきた。“帰ろうかな。タケゾーから「淋しいから帰って来い」って言ってくるまでと思ったけれど、なーんにも言ってこないし。まさか、浮気してるんじゃ? 違うわよね、いくらなんでも。でももしかして……” そう思い始めると、矢も盾もたまらなくなってくる。「明日にでも帰るわ。いろいろと予定があるから」。こうと決めたら、決して譲らぬ小夜子の気質を知る茂作だ。何とか引き留めようと考える茂作だったが、如何ともしがたかった。
「安心せ。茂作のことは、しっかりと本家のほうで面倒みてやる。武蔵さんの妻として、しっかり勤めを励め。そうすることが、茂作への孝行ちゅうもんじゃ」 本家のお婆さまの言葉で、一抹の不安を覚えていた小夜子も安心することができた。“おばばさまのご意見なら、酒浸りになることもないでしょう。それに、タケゾーのお金で、村でも大事にされるわ”「やっぱり帰る。また、遊びに来るから」“帰る、じゃと! 遊びに来る、じゃと! 小夜子の家は、もうここじゃないのか。わしがおるこの家は、小夜子の家ではないのか。あの、大正生まれのあの軟弱男に盗られたのか! わしの大事な小夜子を盗られたのか?”

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