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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜(二百五十四) 

2022年07月01日 外部ブログ記事
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 奥の部屋で横になりながら、ガーデンパーティを思い起こした。鹿鳴館を想像していた小夜子で、あまりのざっくばらんさに、拍子抜けしてしまった。家を出る時の、あの緊張感。不安の高まりから、武蔵の腕をぐっと握った小夜子だった。こわばった表情を見せながら車に乗り込んだ小夜子だった。「なんだ、なんだ。敵討ちにいくんじゃないぞ、おいしいものを食べにいくんだから。肩から力を抜いて、大きく息を吸い込んでゆっくり吐け。そうそう、肩を上下させて。どうだ、落ち着いたか? きれいだぞ、小夜子。みんなびっくりだ、お姫さまだってな。なあ、運転手君。可愛いだろう、俺の小夜子は」と、大はしゃぎだ。「はあ、まったくです。お姫さまですか、確かにです。東映の時代劇映画のお姫さまですよ、本当に。いやあ、ありがたいです。わたしも今日一日楽しい日になりそうです」と、運転手も話を合わせた。
 楽しい一日になる筈だった。列をなして押し寄せる男たちがいて、口々に小夜子を褒めそやす。そしてひざまづいて、手の甲に軽くキスをしていく。映画[ローマの休日]の女王との謁見シーンを思い浮かべていた。しかしこのパーティは、とうてい許せるものではなかった。「おじさん! なによ、あれは。パーティだっていうから、どこかのホテルでって思っていたのに。お庭での、バーベーキューだったじゃない! 着物を着てるからあまり食べられないし、武蔵はひとりであちこち回っちゃうし」不機嫌な折には、武蔵をおじさんと呼ぶ。家に戻ったとたんに、武蔵にかみついた。車中では無言をとおした小夜子を、疲れからのことだろうと考えていた。自身は、上機嫌だった。
“大成功だ。小夜子の着物姿に、みんな口あんぐりだ。芸者たちで着物姿を見慣れたとはいえ、振袖姿ははじめてのはずだからな。写真で見たらしい舞妓に会いたいとせがまれていたからな。しかも、男ずれしていない、まったくの素人娘だ。東洋の神秘だなんて声があったが、冗談じゃない。妖艶さはこれから俺が引き出すんだよ。今の小夜子を評すれば…。そうだな、東洋のヴィーナスだ。惚れ直したぞ、小夜子” そんな武蔵に、思いもかけぬ小夜子の言葉が飛んだ。不意を突かれた思いの武蔵に、容赦ない小夜子の一撃が飛んだ。「もういい! あたし、英会話やめる。どうせあたしの英語なんて、だれも聞いてくれないんだから。なにを言ってるのか、さっぱり分からないもん。おじさんの方が、よっぽど上手じゃない。あたしなんか、要らないわよ!」
「小夜子、小夜子。きげん直せ、直してくれ。あいつらはな、みんな南部出身なんだよ。アメリカって国は広いんだ。東と西では、何百キロもいや何千キロと離れてる。それに北部と南部はな、むかし戦争をしてるんだ。仲が悪いんだ。徳川幕府と薩長みたいなもんだ。だから、あいつら南部人は、えっと、そう! 方言だ。方言なんだよ。あいつらの英語は、世界では通用しない。そこにいくと、小夜子の英語は正統派だ。グレートブリテンイングリッシュなんだ。以前に言ったろうが。小夜子の英語でなければ、貿易がうまくいかないって。だからしっかりと、勉強してくれ」
 小夜子の肩を抱きながら、必死になだめた。実のところは、小夜子を英会話学校にかよわせる理由はほかのところにあった。“止めさせるわけにはいかん。正三とかいう坊ちゃんとの逢瀬の時間なんぞ、金輪際つくらせるものか”これが本音だった、偽らざる武蔵の思いだった。

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