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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (二百二十七) 

2022年05月04日 外部ブログ記事
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 店の中から女給たちの嬌声に送られて男たちが出てきた。皆が皆、高揚した観で、緩みっぱなしだ。中には女給に抱きついて「キスしてくれなきゃ帰らないぞ」と懇願したりする者もいた。「もう一度入る?」。「こらこら、もう帰るぞ」。そんな会話が聞こえる中、別の一団がボーイに促されて店内に入っていく。大きなドアが開いたとたんに、中からブラスバンドの音が漏れてきた。と、今の今まではしゃぎ回っていた正三が、突然黙りこくった。
 キャバレーと聞いた折に正三の頭に浮かんだのは、初めて東京の地を踏んだあの日のことだった。「生バンド演奏を聞きたいわ」。駅のホームに降り立ってすぐの、小夜子のことばを思い出した。あの日は、小夜子に振り回され続けた一日だった。腹立たしいはずの、屈辱的な一日だった。はずなのだ。しかしそれが正三の胸を甘酸っぱさで一杯になっている。
 そしてあの再会では、一方的に詰られた。正三の不実を、これでもかとばかりに責め立てる。正三の情交を、汚らわしいものと責め立てる。そしてひと言の弁解も許さない。最後にとどめとばかりに発せられたことば。「男らしくありませんことよ!」。正三の胸にぐさりとくる言葉だ。
“ぼくを非難するけれど、小夜子さん、あなたはどうなのですか。みたらい某という男とは、どのような間柄なのですか? もう、もう、もう……。あなたの操は……”“他人を非難しても、己を正当化することはできないんですよ” 喉まで出かかったことばを、ぐっと飲み込んだ正三だった。それを口にすることは、己の非を認めることになる。己の発したことばに、正三自身が縛られることになる。
 複数のトランペットが高らかに鳴り響く店内、その喧騒の中をボーイの先導でボックスに着いた。そこで山田が噛み付いた。「何だ、この席は。馬鹿にしているのか、我々を。高級官僚としての道を順風に歩いていられる坊ちゃんを、こんな席に押し込めるとは。課長! 出ましょう、こんな無礼な店はだめだ」「お、お客さま。大勢さまのお席は、ただいまのところ此処だけでございまして。少しの間、ご辛抱願えませんでしょうか」 先導したボーイがあわててあやまった。
「許せん。なるほど、この込み具合だ。多少のことは我慢しよう。しかし手洗いのわきというのは、言語道断だ」「きみ、マネージャーを呼びたまえ。山田くん、ボーイ相手では如何ともできんよ」 見かねた杉田が口をはさんだ。「ターちゃん、いらっしゃ〜い! あらあら、何をおこってるのかな、ハンサムボーイたちは」 妖艶な雰囲気をただよわせる女給が、課長の杉田に抱きついてきた。よりによってこんな席にと、その笑顔の下では思っている。入りたてのボーイでは対処できないだろうと、あわてて接客中の席から飛んできた。

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