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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (二百九) 

2022年03月23日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



「どうしたんだ、灯りも点けずに。寝てたのか、このソファは良いだろう? このひじ掛けを枕にして眠ると、良く眠れるんだ。俺もよく眠るぞ。そうだろ? 小夜子にいつも起こされているよな」
 饒舌な武蔵に対し、唇を真一文字に結んだままの小夜子が、一点を凝視して身動きひとつしない。灯りを点けると、出かけたままの洋装姿だ。帰宅時には着替えるのが常の、小夜子なのにだ。「どうしたんだ? 正三くんには会えただろう? 喧嘩でもしたのか、それとも変わってしまった正三くんに、驚いたのか? まあ男というのは、三日会わないとと変わるものだからな。まして、官吏さまとなると、いろいろあるだ、、、」
「タケゾー! タケゾーのせいよ! タケゾーのせいで、わたしの人生は無茶苦茶よ。あの人は、正三さんじゃない! わたしの正三さんじゃない。別人よ、他人よ。タケゾーのせいよ、タケゾーの」 激しく慟哭しながら、武蔵の胸をたたいた。弱々しいそれがそして声が、小夜子の衝撃の深さをあらわしている。「タケゾーよ、タケゾーが悪いのよ。タケゾーのせいよ、全部」
 儀式のはずだった、単なる儀式の。いまさら正三と結ばれるなどとは考えていない小夜子だった。武蔵との幸せな人生を、贅沢三昧の生活を送るこれからを見せる。まさに正三への、不実な正三へのあてつけのはずだった。涙ながらに許しを請う、正三がいるはずだった。土下座をして小夜子の愛を求める、その正三でなければならなかった。そして、そして、学生服に身を包んだ正三でなければならなかったのだ。
「小夜子さん、小夜子さん……」。正三が取るべき行為すべてに小夜子の許しを得る、そんな正三を思い描いていた。そんな正三に投げかける言葉。そしてそんな正三に対して、小夜子がとる行動――毎夜毎夜、思い浮かべたことだ。「よろしいことよ、正三さん。あなたを許します」
「でもね、小夜子は、あなたのもとへは参れないのです。武蔵という伴侶と、世界を旅するの。アーシアと共に過ごすはずだった日々を、武蔵という伴侶とともにです」なんどもなんども、伴侶ということばをつかう。正三がそのことばにたいして、歯ぎしりして後悔するであろうことを思い描いたことばだ。 「正三さん。ありがとう、いままで。小夜子はあなたと出会えたことを、神さまに感謝したいと思います。正三さん。どうぞ、お国のために国民のために、しっかりとお仕事をしてくださいな」ひざまずいて許しを請う正三を見下ろす小夜子。慈愛に満ちた笑みを浮かべて見下ろす小夜子。そんな己の姿を思い浮かべていた。しかしそれが現の世界ではなく、夢想の中だけと知らされた。

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