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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (百九) 

2021年06月22日 外部ブログ記事
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 そのままキャバレーに戻った武蔵は、訝しがる五平や梅子に、
「なんだ、なんだ、その目は。あんな小娘をどうかするとでも、思っていたのか。
今夜の相手は、珠子に決まってるだろうが!」と、珠子を呼び寄せた。
他のボックスに居た珠子だったが、すぐに武蔵の元にやってきた。

「おお、珠子! 淋しかったぞ!」と、大げさに声を上げて珠子に抱きついた。
「うれしいぃ!」と、珠子もまた武蔵の背に手を回した。
珠子の豊満な胸が武蔵の欲情に火を点け、「店が終わったら、付き合うんだぞ。今夜は、寝かさないからな」と、耳元で囁いた。
「それじゃ、あとでね」と言い残し、待ちぼうけ顔をしている客の元へと戻っていった。

 珠子が離れた後に武蔵が、梅子に対して「おい、梅子。あいつのどこが、未通女娘だと言うんだ。思いっきり、淫乱の気があるじゃないか」と、軽く睨みつけた。
空になった武蔵のグラスにウィスキーを注ぎながら、梅子は澄まし顔で答えた。
「この店では、まだ未通女だわよ。誰も、手を付けてないんだからさ。
それより、どうしたのさ 振られたのかい、あの娘に。珍しいこともあるもんね」

「いやいや、どう致しまして。これからさ、あの娘は。じっくりと、構えるのさ。
まだ、ネンネだなからな。五平、気に入ったよ」
「社長! 伴侶にしてくださいよ。二、三年もすりゃ、いい女になりますって」
 得意満面に、五平が答えた。
「そうだな、考えとくよ。梅子、悪い虫が付かないよう、監視しててくれ」

「あいよ! 任しときなっ。社長、本気なんだね? 一時の気の迷いだった、なんて言わないでおくれよ」
 梅子が真顔で武蔵に詰め寄った。
「あの娘は、ほんとに身持ちの堅い娘でね。何人かの客に言い寄られたんだけど、頑として受け付けない。
『わたしには誓い合った人がいますから!』って、真顔で拒否するんだよ。
断る方法を二つ三つ教えたんだけど、『うそはバレますから』って、言い張ってねえ。
可愛い娘だよ、ほんとに」

 武蔵にというよりは、己に言い聞かせる風の梅子だった。
「娘というには、あたしはまだそんな年じゃないし。まあ、少し離れた妹かねえ」と、感慨深げに続けた。
「それにさ、なんでも英語とかを話せるようになりたいとかで、昼間は学校通いだよ。
で、昼間にも時間を作ってはどこかで仕事をしているみたいでね。
健気な娘だよ、ほんとに。そうだ! 社長。少し援助してやってくれないかねえ。
このままじゃ身体を壊すんじゃないかって、不安なんだよ」
 いつになく真剣な顔付きで、武蔵に迫った。

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