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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第一部〜 (八十三) 

2021年03月11日 外部ブログ記事
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 服部、山田、そして竹田の三人が、大浴場の湯船に貸し切り状態で浸かっている。
他の一般客を閉め出しているわけではないのだが、時間が遅いことと富士商会の面々は夜の街に繰り出していることからのことだ。
実のところは、それだけではない。
服部のいたずらで「清掃中」という立て看板を立てている。
五平からの多額の心付けを受け取っている仲居頭の黙認と、服部のお茶目な頼みに部屋付きの仲居が協力しているのだ。

「社長、変わったよな」「どんな風に」「おとなしくなったというか、さ」
 服部と山田の会話に、竹田は黙って聞きいっている。
「竹田、そう思わないか」
 またこいつ打ち沈んでいるのか、と疑った服部が竹田の顔に手で水鉄砲をかけた。
「なあ、社長と加藤専務ってさ、どっちが怖い?」

 竹田が、その問いに答えることなく、二人に質問を投げかけた。
「はあ?」と怪訝な表情を見せつつ「どっちも怖いけど、強いて言うなら専務かな」と服部が答え、「そうだな」と山田が同意した。
「けどまあ、それは今現在のことであって、起ち上げの頃は、二人とも怖かったぜ。
特に社長は鬼気迫るというか、三国人やらテキ屋相手に一歩も引かないもんな。
あの暴力団相手にした啖呵は忘れられん」
「お前らチンピラごときにぐだぐだ言われる覚えはないぞ! 
こっちは特攻崩れなんだ! 一回いや二回三回と死ぬ思いをしてきたんだ。
いや、あのときに死んだんだよ! おまけなんだ、これからは」

 富士商会のあまりの景気の良さに用心棒代を要求してきた暴力団に対応したしたときの、武蔵の一世一代の仁王姿だった。
無論、五平にこの三人もまた武蔵の後ろに立っていた。
人数的に武蔵側が多かったせいもあるが、武蔵の気迫に暴力団側が負けたということだった。
といっても、面子の世界に生きる暴力団としても、「はいそうですか」と引き下がるわけにも行かない。
水面下の交渉が行われて、ヤミ市に店を出す折に挨拶をしたテキ屋の総元締めを仲介役として手打ちが行われた。
一時金として拾萬円を支払い、以後は一切の介入をしないとの約定が交わされた。
暴力団にとってはかろうじて面目が立つという条件で、総元締めの威光だけが示されたものだった。

「やっぱ、あれだな。大病をして生死を彷徨うと人は変わる、って言うけど、社長も人の子なんだな」
「そういうことだろうな」
 山田の言葉に頷く服部だったが、「この二人は分かっちゃいない、社長の怖さを」と竹田は思った。
あの日の病室での会話を耳にしていなければ、竹田も同調していたことだろうが。

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