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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第一部〜 (三十五) 

2020年11月19日 外部ブログ記事
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「仕方ないねえ、こればっかりは」
 乗り合わせていた白髪の老紳士が、小夜子に声をかけた。
柔和な顔つきはすべてを成し終えたという安堵感に溢れていて、少し甲高い声もゆっくりとした口調だった。
「心配することなんか、ちっともありませんよ。
この中は、ビックリ箱ですからねえ。
あちこち見て回ってごらんなさい、二時間なんてあっという間ですよ」
と、連れの老婦人も優しい笑顔で声をかけた。
品の良い雰囲気が感じられる女性で、老紳士の片腕をしっかりと掴んでいる様は夫婦間の絆を漂わせているものだった。

「そうですよね。全館見て回ったら、あっという間ですよね」
 嬉しそうに、正三が答えた。しかし小夜子の表情は、固いままだった。
「小夜子さん、このまま五階まで行きますか?」
「もちろんです。
他の階は、ショーの後にでも回ればいいでしょ。
良い席が取れなくなるとイヤですから」
「なる程、それもそうね。良い席はすぐに埋まりますからね」
 老婦人が、小夜子の横顔を見て頷いた。
一点を見つめ続ける小夜子に、意思の固さを見る思いだった。

「四階でございます、紳士服の階でございます。山下さま、ご利用ありがとうございます」
 深々とお辞儀をして、老夫妻を送り出した。
他の客たちもすべて降りており、乗客は小夜子たち二人になった。
「ああ、肩凝っちゃった。今のお二人、大のお得意様なの。
すごく気を遣うのよ。あら、ごめんなさい。
こんなこと言っちゃいけないんだわ」
 思いもかけぬ気さくな話し振りに、小夜子もつい本音を洩らした。

「そうですか、それで威張ってたんだ。
真ん中にデンって、陣取っちゃって。
近寄りがたかったですね、ほんと。
他の人も、変に気を遣ってるように見えたし」
「校長先生だったの、高等女学校のね。
あたしの姉の担任でね、結構厳しかったらしいわ。
退職されてからは、優しいおじいちゃんって感じね。
まあ、威張っている風に見えるのは、長年の教師生活のせいでしょうね」

「そうなんですか」と頷く正三に対して、小夜子は「ふん」と鼻を鳴らした。
小夜子の行動に対して何かと指導する女教師に対して不満を持つ小夜子には、全教師が敵でしかなかった。
「ふふふ……。どうします? 五階で、いいかしら? 二時間って、結構長いわよ」
 あたしも学校は嫌いだったわ、と同調されるとますます親近感を覚える小夜子だった。
他の生徒の模範だと賞賛されている正三にはまるで分からぬことだったが、姉妹のように仲良く話す二人は微笑ましく思えた。
「いいんです、五階で。何だか疲れちゃって」
「人いきれしたのかもね。はい、着きましたよ。楽しんでね」

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