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吾喰楽家の食卓

『よたんぼう』(感想編) 

2019年04月24日 ナビトモブログ記事
テーマ:古典芸能

今までに読んできた落語関係の本は、速記本、もしくは噺家本人、家族、弟子などが書いた、エッセイやノンフィクションが多かった。
小説も読んだが、『小説 落語協団騒動記』(金原亭伯楽著)は、著者自身が「90%以上は事実」と言っていたくらいで、ノンフィクションに近い本だった。
最近読んだ、『小説集 芝浜』(山本一力著)は、古典落語を補筆したもので、非常に面白かった。
とは言え、小説ではなく、落語としての魅力である。

今回の『よたんぼう』(桂歌蔵著)は、亡き師匠へのオマージュを込めて捧げる処女小説である。
噺家の半生を描いた、型破りな青春小説だ。
勿論、落語好きには、たまらない小説だが、そうでない人でも十分に楽しめる工夫がある。
例えば、古典落語を話題にするときは、簡単にあらすじを紹介している。
また、色々な噺家を登場させているが、誰をモデルにしているか、見当が付く。
それは、キャラクターを作るため、利用しているに過ぎない。
あくまでも、この本は小説なのだ。

鏡介の師匠である風月亭鏡生は、言うまでもなく桂歌丸がモデルだろう。
鏡生は稽古や躾に厳しい師匠の設定だが、歌丸もそうだったらしい。
鏡介の兄弟子である鏡扇は、桂歌若や桂歌助である。
鏡生の惣領弟子である小鏡生は、桂歌春だ。
鏡介が入門した際、すでに小鏡生は真打になっている。
前座の鏡介が兄弟子を呼ぶときは「鏡扇兄さん」、真打の兄弟子は「小鏡生師匠」、師匠の鏡生は単に「師匠」と呼ぶ。
外部の人には、たとえ師匠でも「鏡生」と呼び捨てにするのは、一般社会と同じだ。

鏡介は、師匠の家で二ヶ月の修行を経て、前座として楽屋入りする。
後輩の桃家緑寿が接近してくるが、彼は柳家花緑を彷彿させる。
二ツ目に昇進した鏡介は、先輩の音曲亭左平次と遊び始め、道を外して行く。
歌舞伎町の風俗街レポーターとして、テレビの深夜番組に出演したことで、師匠から破門される。
師匠の元を飛び出した鏡介は、名を捨て、世を捨て、インドまで流れ着く。
そのインドから、鏡介を日本に連れ戻し、福島に演芸場を作り、住み込みで落語をやらせてくれる人が居る。
後で分かることだが、鏡介を心配した鏡生の差し金だ。

元兄弟子の鏡扇が演芸場を訪問し、鏡生の死を知らせる。
破門以来、十数年ぶりに元師匠の自宅を訪ねる。
そして、鏡生の意をくんだ浮世家玄遊に助けられ、鏡介は玄遊の弟子として協会に戻ることが出来る。
玄遊の行動は、複数の落語家の転籍を受け入れた、鈴々舎馬風の経歴と一致する。
真打昇進の数年前に破門された事に配慮し、玄遊一門になって程なく、鏡介改め玄好は、真打になれる。
真打披露興行でトリを勤める玄好は、鏡生の弟子として最後に教えて貰った『船徳』を高座に上げる。
勘当されて船頭になった若旦那と自分を重ね、徳兵衛が漕ぐ船と同じに、玄好の噺もどんどん脱線して行く。

『よたんぼう』のあらすじを、思い付くままに書いたが、触れなかったことが二つある。
興味がある方は、本を読んで頂きたい。
一つは鏡生の娘である、由紀恵との叶わぬ恋である。
もう一つは、地味に登場する中学の同級生である、岩鶴智美のことだ。
二人の存在が、この作品を、本格的な小説にしている。
小説の中で、由紀恵はアメリカ人と結婚し、二人の子供をもうける。
岩鶴智美は、披露興行で花を贈るだけで姿を現さないが、現在の歌蔵の奥方がモデルかもしれないと、勝手な想像をした。

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写真
4月23日(火)の昼餉と夕餉



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