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男の花道 

2018年09月20日 ナビトモブログ記事
テーマ:古典芸能

国立演芸場九月上席と中席のトリは、それぞれの所属に於ける、新作落語の大御所である。
上席は、落語芸術協会の昔昔亭桃太郎が勤め、三日目に見た。
中席は、落語協会の三遊亭円丈が勤め、八日目を見ることにした。
一昨日、国立演芸場へ着き、玄関脇のタイムスケジュールを見ると、円丈師は休演で、代演が古今亭志ん輔になっていた。
休演者には申し訳ないが、志ん輔師のファンとしては、大歓迎だ。
元々、今回の公演は、仲トリの林家正雀が目当てだった。

代演とはいえ、円丈師の代わりに志ん輔師がトリを勤める訳ではない。
格上の正雀師が仲トリからトリへ回り、正雀師の代わりに志ん輔師が仲トリを勤めるのである。
国立演芸場では、定席の持ち時間が、トリは30分、仲トリは25分、真打は20分、二ツ目・前座・色物は15分だ。
正雀師の持ち時間は5分増えただけだが、トリだから多少の延長は許される。
今までの七日間より長くなったので、トリに相応しい大ネタを高座に上げるかも知れないと期待した。
以下、出演順に感想を述べる。

   *****

■林家彦星(牛ほめ)
初めて見る噺家だが、正雀師の弟子ということは、名前から想像できた。
後で調べたら、前座歴丸二年の若手である。
滑舌は悪くないが、如何にも新人という、素人っぽい語り口だ。
それでも、聞いているうちに、これは彦星さんの個性と思え、好感が持てた。

■三遊亭わん丈(新蝦蟇の油)
円丈師の弟子で二ツ目である。
「師匠が居ないので、師匠から教わった噺を遣る」と、マクラで云った。
師匠直伝の噺は、本人の前では遣り難いらしい。
お馴染みの古典落語を、今風にアレンジした新作落語だが、テンポが良く、大いに笑わせてくれた。

■三遊亭丈二(権助魚)
円丈師の弟子で真打である。
昨年の九月中席でも、この噺を遣った。
とにかく、女性を遣らせたら、その口調の見事さは超一流だ。
持ちネタではないかも知れないが、『紙入れ』や『厩火事』が上手そうだ。

■春風亭百栄(狸札)
おかっぱ頭がトレードマークの噺家である。
日頃は新作落語だが、今回は、多くの前座が遣る、古典落語を高座に上げた。
ゆったりとした話し方は、リラックスでき、色物的な効果を感じた。
お馴染みの噺ということもあり、リラックスしすぎて、眠くなった。

■古今亭志ん輔(佐々木政談)
志ん輔師の飄々とした所作が、何とも云えない。
職人と子供の表現の上手さを、この噺でも披露してくれた。
政談とは大岡越前など、お裁きの場面が登場する噺をいう。
奉行を演じても、堂々としていて、中々、良かった。

■柳家小ゑん(樽の中)
新作落語を中心に口演している。
嫁と姑の確執から始まる新作落語である。
ところが、嫁は糠味噌樽の中の不思議な世界に入り込み、若かりし頃の姑の秘密を知る。
後半は、人情噺風に仕上がっているのが、何とも見事な噺の構成だ。

   *****

場内はガラガラで、百人足らずの観客しかいなかった。
それでも、正雀師が姿を現すと、最前列に居る私の背後に熱気を感じた。
「待ってました!」の声が掛かった。
正雀師を目当てに来ている客が多いようだ。

師匠は、大学の卒業が半年遅れた。
勘当されていたので、半年分の学費は落語研究会顧問の教授が出してくれた。
師匠が、勘当されたのは、落語界に入門したことが原因だ。
「大学は日大です。これが云いたかったのです」で、短いマクラは終わった。

噺が始まると、直ぐに『男の花道』だと分かった。
後で調べたが、落語を見た記録は残っていなかった。
映画、歌舞伎、講談でお馴染みの噺である。
映画と歌舞伎は間違いなく見ていないので、記憶が鮮明なのは、講談で見たのかも知れない。

人情噺だが、その中でも音曲・芝居噺という分野に分類される。
歌舞伎役者と蘭学医の信頼関係が、何ともいい。
蘭学医の窮地に、舞台に穴を空けることを、観客の許しを請う口上は、最高の見所である。
「役者の道を外せても、人の道は外せない」と云う。

毎年、二月中席の鹿芝居で、正雀師は女形として活躍している。
だから、歌舞伎役者の口上など、御手の物だろう。
幕が下りる時の客席の熱狂は、桂歌丸の最後の口演『小間物屋政談』を彷彿させた。
素晴らしい高座を見られた、百人足らずの観客の一人になれたことは、何とも幸運だった。

*****

写真
9月18日(日)の演題と夕餉



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