ほっこり

南十字星の恋〜B 

2018年06月01日 ナビトモブログ記事
テーマ:小咄


眩しかった太陽が
まわりを赤く染め水平線の彼方に消え行く
南国の神秘的な夕暮れ

海岸近くのヤシの葉陰に
いつものようにたたずむ二人の男女
オルトとカレナの姿があった

しかし、今日のふたりはいつもと違った

夕焼け空が美しいのに
まるで暗黒の世界に閉じ込められたようなふたり
オルトは夕陽をぼ〜っと眺め
カレナはうつむいたまま

明日はオルト一家が向かいのポロ島に移る日

はじめこそオルトが近いからいつでも会えるなどと
陽気に話しかけていたが
やがて沈黙にかわった
カレナの目からは涙があふれるばかりであった

ハレム島とポロ島は手が届きそうなくらい近いが
手漕ぎカヌーで渡るには少々無理がある
定期便が出ているわけでもない

いいなずけの関係のふたり
いずれは所帯を持つ予定だが
若いふたりにとって
毎日会えぬのはつらい

オルトが時々は海を渡って会いに来るよとは言うものの
幼い頃から毎日会って話をし楽しんできたふたり
若さゆえとくにつらい感情がわき起こる
しかも、手漕ぎ舟では簡単に会いに来れないことは
ふたりともわかっている

オルトはしばし考えてカレナに伝えた
毎日、太陽が水平線の彼方に沈んだころ
大きな焚き火でカレナに合図を送ると
そして、
その灯りを見て僕を忘れないで欲しいとつぶやいた
カレナのためにどんなことがあっても灯し続ける
そうオルトは約束した

涙目のカレナはうなづいた

そして、翌朝オルト一家は島に1隻だけある
大型の舟でポロ島へ渡っていった

その日の夕暮れ
カレナはいつもの浜辺へ出た
ポロ島のサンゴの岩肌が夕日で薄くではあるが
赤く染まって見える
そして、暗くなった頃だった

ポロ島の海岸付近に小さな明かりが灯った

小さな点みたいだがカレナにははっきりとわかった
オルトの合図の焚き火だ
かすかであるがロウソクの炎のように揺れて見える 

カレナの心ははずんだ
あそこにオルトがいる
私のためにともし火を・・・
涙があふれて止まらなかった

その日以来、夕暮れには浜辺に来て
オルトの火を見つめるカレナであった

そんな毎日が続き
カレナのオルトに会いたいという想いは
日増しに強くなっていった

そして、我慢できなくなったカレナは
ある日、ついに決心をした

(続く)


Richard Clayderman〜Mariaged'amour 2:42
https://www.youtube.com/watch?v=YCl-0lu0vHM



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月あかり様へ

ぼてふりさん

書いた時点で話は作者の手を離れます
自由に想像の世界を創って頂けるなら
本望です
稚拙な文章ですが何某かの想いが伝われば
こんなに嬉しいことはありません

月あかりさんの新作を期待しています

私とは一味も二味も挌上の
ムーンライト・ワールドを
楽しみにしています

2018/06/01 09:45:37

南の島の

月あかりさん

風景と若い男女の純愛の美しいハーモニーが、
島を隔てる波間に漂うようです。

毎夜燃やす火はオルトの心

それを自分の思いをも入れた器で
掬ってしまったカレナの器は溢れてしまう

恋はある意味狂気ですね。
そんな経験があって器は少しずつ大きくなる。

・・・と、勝手に解釈をしています。

2018/06/01 09:14:34

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