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吾喰楽家の食卓

三作目の鹿芝居(反省会編) 

2018年02月15日 ナビトモブログ記事
テーマ:古典芸能

鹿芝居に恒例のことだが、幕が下りると、出演者の全員が、二階のロビーに出てくる。
舞台衣装のまま、客を見送ってくれるのだ。
その際、馴染み客の挨拶に応じたり、写真を撮らせてくれたりもする。
中には、贔屓の噺家と、ツーショットを撮る客も居る。
一人で来ている者は、空いていれば、演芸場のスタッフや二ツ目さんに頼むことも可能だが、今回のように混んでいては駄目だ。
それでも、正雀師と馬楽師に声をかけ、写真を撮らせて貰ったら、ポーズを取ってくれた。

最近、ダイエットをしているので、中華料理は我慢している。
久しぶりの食べたくなり、近くの中華料理店へ行った。
晩酌セット(三十種類の料理から二品・飲み物一杯)を、頼んだ。
生ビールと、餃子と鶏唐揚げを選んだ。
二杯目の生ビールを、飲み始めたときのことである。
私服に着替えた馬生師が、入ってきた。
師匠と目が合った。

噺家が高座を済ませた後、寄席の近くで、反省会と称して飲食することは珍しくない。
驚いたことに、馬生師から話しかけてきた。
「今日は有り難うございます」という様なことを云ったと思うが、よく覚えていない。
「面白かったです。千穐楽も来ますよ」と、応えた。
馬生師は、十人ほどいる好きな噺家の一人ではあるが、お付き合いがある訳ではない。
私の顔を知っていたことに驚いた。
そして、嬉しくなった。

馬生師が誰と来ているか、横目で確認した。
前座さん二人、下座のお姐さん、世之介師、菊春師で、総勢六人だった。
何か差し入れを、しようと思った。
前座修行中は、酒と煙草は厳禁である。
二人は、烏龍茶と思しきものを飲みながら、食事をしていた。
お姐さんは何を飲んでいたか見えなかったが、三人の師匠は生ビールを飲んでいた。
「皆さんで」という意味では、生ビールより瓶ビールが良い。
少し考え、自分の生ビールを追加するとき、瓶ビールも頼んだ。

師匠たちと、私の体の向きは九十度違っていた。
程なく、「おっ」という声が聞こえたので、師匠の方を見た。
ビールが、届いたのだ。
礼を云われ、会釈で応えた。
この店は、庶民的な価格体系なので、瓶ビール二本は、高が知れている。
私の顔を覚えていてくれた、礼としては安いものだ。

「高座から、客の顔は、よく見える」と、云われている。
今回の公演で、私が最前列の中央に座っていただけで、覚えてくれたのだろうか。
最後に馬生師の高座を見たのは、昨年十一月の上席である。
弟子の三木男が、桂三木助を襲名した披露公演だ。
席は、今回と同じだ。
口上の際、私の左右の客、四・五人が、マナーに反して写真を撮り始めた。
「これだけのメンバーが揃ったのだから、写真を撮りたい気持も判る」と、馬生師は皮肉を云った。
多分、私は腕を組み、憮然としていたはずだが、そのとき、馬生師と目が合った。
そのとき、私の顔を覚えたのかも知れない。

三杯目の生ビールが空いたので、おつもりにした。
師匠の席を見ると、二人の前座さんは、既に帰っていた。
三人の師匠は、瓶ビールを飲んでいた。
長居は野暮、先に来たのだから、先に帰ることにした。
師匠たちの脇に立ち止まり、「ごゆっくり」と、声をかけた。
四人が起立し、挨拶を返してくれたのには、恐縮した。
繰り返すが、高が瓶ビール二本のことである。
ルンルン気分で、店を後にした。




『子別れ』のあらすじです。
興味がある方は、是非!

http://senjiyose.cocolog-nifty.com/fullface/2004/10/post_15.html

   *****

写真
2月13日(火)の出演者(左から:正雀・馬久)と晩酌セット(餃子・鶏唐揚げ・生ビール)



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シシーマニアさんへ

吾喰楽さん

こんにちは。

拙いブログですが、熱心に読んで頂き、恐縮です。

気持は、固まりませんでしたよ。
私が国立演芸場を出た時は、皆さんは、他の客と挨拶をしていました。
それから化粧を落とし、着替えたのに、私の30分遅れで店に姿を現した速さに、先ずは驚きました。
更に、先方から話しかけて来たのには、本当に驚きです。

江戸っ子かどうか・・・
邪魔をしてはいけないとは思いました。
仲間内の、ひと時ですから。

2018/02/15 16:31:35

今帰宅して、真っ先にブログ拝読

シシーマニアさん

今日のブログ、特に楽しみでした。

ゴクさんの事だから、さぞ出過ぎずのマナーだったのでしょうね。
多分そういう人が、印象に残るのでは・・?

ばったり、今舞台で演じていた人に出会うと、気持ち的に固まりませんか?
しかも、彼方から挨拶してくれたのですから・・。

その対応が、実に的を得ているなぁ、と感心しました。

江戸っ子、ですねぇ。

2018/02/15 13:08:41

もどりんこさんへ

吾喰楽さん

わが町には、町内を走る路線バスがありません。
最寄りのローカル線駅には、タクシーも無い田舎です。
とはいえ、住めば都ですね。

好きなことの為なら、国立演芸場のある隼町まで、片道2時間以上かけて通うのも苦になりません。

2018/02/15 10:55:17

やっぱり

さん

いろんなものを楽しもうと思うと、都会(笑)に居たいですね。
選択肢が多くてワクワクしますもんね。
しかし、終の棲みかとなると宮崎が私には合ってるようだし。
機会を見つけて、少しでも楽しみながら過ごしたいものです。

2018/02/15 10:21:01

もどりんこさんへ

吾喰楽さん

おはようございます。

鹿芝居は、11日から20日までです。
満席の日もありますが、チケットは、少しですが残っています。
電話予約で、65歳以上でしたら、1,300円で見ることができます。

この後、横浜でも鹿芝居はあります。

それでも、宮崎からでは遠すぎますね。

2018/02/15 10:03:15

パトラッシュさんへ

吾喰楽さん

おはようございます。

山口さんの随筆、よく覚えています。
印象に残る一作です。

もし、師匠たちが、二・三人でしたら、ビール瓶を持って、お酌に行ったのですが・・
六人なので、店の人に頼みました。
ファンとはいえ、余り図々しくても、嫌われるでしょう。

徳には、程遠い私です。
三木助襲名披露の出来事くらいしか、心当たりがありません。

2018/02/15 09:58:14

鹿芝居

さん

一度見てみたいですね。
一人何役もこなしながら話を進められる噺家さん達が芝居を・・
想像しただけで楽しそうです。

2018/02/15 09:28:39

幸運です

パトラッシュさん

山口瞳さんの随筆を思い出しました。
並木の藪で、たまたま、馬生師(先代)と会った。
(という設定になっています)
馬生師は、相席を勧めてくれたばかりでなく、酒についての、
諸々を語ります。
その独白たるや、そのまま、落語になるようでした。

先代は、放縦にして、固陋なところもあったようですが、
当代は、どうやら、闊達な人のようですね。
(変人奇人の台頭が難しい、現代の風潮もあるでしょうけれど)
落語家も、時代に合わせ、ファンを大事にしなければ、やって行けない。
と言うことでもあるのでしょう。

それにしても、吾喰楽さん、幸運でした。
そして、それは、誰にでも訪れるものではありません。
きっと、伏線となる、何かがあったのでしょう。

以下の二つの諺を思い出しました。

「積善の家に余慶あり」
「徳 孤ならず 必ず隣あり」 

2018/02/15 09:27:21

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