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敏洋’s 昭和の恋物語り

[舟のない港](八十八) 

2016年07月28日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



「おじさん、ひどいよ。先に出ちゃうなんて」
と、男の傍に座った。
「あゝ、悪かった。じゃあ、席も空いたことだし、移ろうか」
と、マスターの目を意識しながら、奥の空いたテーブルに移った。

「どうして起こしてくれなかったの、もう! 
今日は、遅刻だよ。だからもう、今日は仕事休み。
さっき、電話したの、工場長に。これでクビになったら、おじさんの責任だからね」
 娘は、小声で悪戯っぽく男に囁いた。

「おじさん、夕べのことを考えてるな? いいよ、気にしなくて」
「あゝ、そうだ。おじさんなんかで、良かったのかなってね」

心なしか、娘の目が潤み始めたように見えた。
そして気怠そうな表情をすると、小さく呟いた。
「その話はやめて。体がおかしくなるの」

「そうか、じゃもう止めよう。ところで、紡績関係なんだね 仕事は。
故郷はどこなの。いつ出てきたんだい」
と、立て続けに質問した。

「おじさん。それって、身上調査? まだ夕べのこと、気にしてるの? 
友達に聞いたんだけど、セックスの後は妙に空々しくなって、弁解ばかりするって。
あたいは、おじさんを責めるつもりはないよ。
あたいが誘ったんだから」

 少し真顔になって、娘は男をたしなめるように言った。
「いやいや、これはごめん。別に他意はないよ。何となく知りたくなってね」

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