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敏洋’s 昭和の恋物語り

[舟のない港](十八) 

2016年03月22日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



麗子の体が小刻みに震えている。
男には麗子の気持ちが手に取るようにわかった。
やはり気が強くても女だ、心細かったのだろう。
しかし今夜は、もう少し気が付かぬふりをしてやろうと思った。
その裏には、いつも一線を画して拒み続ける麗子への反発心があった。
いつかは結婚するんじゃないか、と男は思う。
しかし今はまだそのことを口にしていないだけに、それ以上強いることを、止めていた。

「寒いのか?」
「ううん。どうして?」
「だって体が震えてるぜ」

無言のまま、麗子は男に体を預けた。
そして、肩に置かれていた男の手を自分の胸に押しつけた。
決して言葉では言わなかった。
そして又、今夜のようにあからさまに要求することはなかった。
それとない素振りで、男の心をそそるだけだった。
そしてその事に男が気付かずにいると、憮然として「帰る!」と言い出すのだった。

男はベッドに腰を下ろすと、麗子を膝の上に抱き抱えるようにして、長いキスを交わした。
やはり今夜は違う。
麗子が積極的に男に応えてくる。
そんな始めてのことに、男は戸惑いつつも応じた。

「今夜はどうする? 電車はもうないだろう。タクシーでも呼ぶかい?」
「意地悪! ムードを壊さないで」

男が麗子にのし掛かった。 
「やっぱり、だめ‥‥」
強い言葉ではなかった。
麗子にしては珍しくも、弱々しい言葉だった。
男の強引な行為を声では拒みつつも、はっきりと拒むわけではなかった。

しばし静寂の時が流れた。
男は満足感に浸りながら、腹這いになってタバコに火をつけた。
余韻に浸っていた
。麗子は、放心状態だった。
大の字になって、天井を見つめている。
どれ程の時が立ったろうか、麗子の口から出た言葉は、予期していたとはいえ男の心を動揺させた。
「わたしたち、もう一心同体ね。ねえ、浮気はダメよ。絶対よ!」
「ああ、勿論だよ」

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