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敏洋’s 昭和の恋物語り

にあんちゃん 〜二十年前のことだ〜 (八) 

2016年01月21日 外部ブログ記事
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 シゲ子が夕食時に倒れたと連絡が入った時、真っ先に駆けつけたのはほのかだった。
床の中で苦しげな表情を見せるシゲ子に近付いた時、弱々しい声で「ほのかちゃん…」 と呼びかけられたが、思いも掛けぬ反応を見せてその場に立ちすくんだ。

「だれ、だれ…」

 小声で問いかけるほのかで、布団の中の土色の肌をした老婆は、ほのかの知る祖母ではなかった。
いつも身ぎれいにしているシゲ子とは、まるで似ても似つかぬ老婆だった。
いや、醜悪な物体に見えてしまった。

「シゲ子、シゲ子。ほのかが来てくれたぞ。良かったな、これでもう元気になれるぞ」
 孝道がシゲ子の耳元で囁く。かすかに口元に笑みが浮かんだ。布団の中からゆっくりとしわだらけの手が出て、明らかにほのかを呼んでいる。
「いや、いや!」
 と叫んだなり、踵を返して家に戻った。
「婆ちゃんじゃない。絶対ちがう!」
 何度もそう叫びながら走るほのかだった。

 シゲ子が息を引き取る前夜のことだ。
付き添っている孝道に対して、シゲ子が力ない弱々しい声で語り始めた。

「ナガオは一見優等生に見えますけど、心の中にはどす黒い澱(おり)が渦巻いているんですよ。
そのことを知っていたくせに、わたしときたら見て見ぬ振りをしてくまって。
ナガオも可哀相な子です。
実の親に捨てられたのですから。
孝男にしても、渋々引き取ったわけですし…」

 眉間にしわを寄せて苦渋の表情を見せながら、孝道もまた力なく答えた。

「といって、実母を責めるわけにもいかん。
両方の親に反対されては…。まだ十七歳の娘さんなんだ。
周囲に反対されればされるほど、燃え上がったんだろう。
しかし、祝福されずに生まれ落ちた赤児ほど哀れなことはない」

 大きく息を吐いたのち、窓の外に目をやった。
今朝から降り始めた雨は、夜になっても止む気配をみせない。

「いま思えば、定男の実子としてわたしたちが育ててやっていれば良かった。今さらですけど」
「お前は悪くない。すべてはわしが悪い。
こんな事になるのなら、反対しちゃいかんのだった。
一緒にさせることができんとしても、お前の言うとおりに、わしらが育てれば良かった。
そうすれば…」

 どれほどに後悔してもしきれない二人だった。
重苦しい空気の中、互いをかばい合っての会話が続いた。

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