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敏洋’s 昭和の恋物語り

長編恋愛小説 〜水たまりの中の青空〜(十八)母親が、今夜はいない 

2015年11月03日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



今、彼に抱きしめられていることで、由香里の心は愉悦感でいっぱいになった。
ふわふわとした、宙に浮いている感覚におそわれている。
彼がゆっくりと体を左右に動かすと、ゆりかごで揺られている思いがする。
幼い頃、母親があやしてくれた、あの至福の時を感じていた。
そして性急過ぎた己に、気付いた。
「ありがと…せんせえ…」
思いもかけず、由香里の口からこぼれた。

ひと晩だけとはいえ、両親そろっての不在ははじめての経験であり、不安な気持ちが最高潮にして達していた。
暖かい愛で満ちあふれていた空間に、突如として寒風が吹き込んできた。
通っている中学校において、「ブス」「くさい」「陰気」「寄るな」「学校に来るな」果ては「死んだら」と蔑まれている生徒がいる。
「あんたもなにか言いいなよ」と、ボス格の女子生徒にこずかれたことがある。
「バカ」と、小声ながらも口にした。
途端に激しい嫌悪感におそわれて、トイレに駆け込んで泣いてしまった。
数人が追いかけてきて「しかたないよ」「なかまはずれされちゃうから」「あの子なら大丈夫だから」と慰めてくれるが、声をかけられればかけられるほど責められている気がしてきた。

その夜は母親の布団に潜りこんだ。
訝しがる母親に対して「あかちゃんなの、いまは」としがみつくだけだった。
「はいはい。今夜は、赤ちゃんね。それじゃ、おっぱいをあげましようね」
しつこく聞くことをやめて、ただただ甘えさせるだけだった。
「ねえ、由香里ちゃん。これだけは覚えていてね。お母さんは、なにがあっても由香里の味方ですからね」
そんな母親がいない。常に由香里のそばにいてくれた母親が、今夜はいない。

唯一頼れるはずの彼にしても、拗ねて駆けだした由香里をすぐに追い駆けてくれるものとの思いが裏切られ、打ち捨てられた不用品のように思えていた。
それが今、彼の膝の上で抱かれているうちに、体だけでなく心にまで、暖かさが沁み込んできた。
「いいんだ、いいんだ。由香里ちゃんの気持ちだけ、もらうよ」
彼もまた、穏やかな気持ちに包まれていた。

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