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第27回 昭和31年春 音楽のけいこ
2014年02月20日
テーマ:テーマ無し
4年生の終り頃、私のおんちをなおすために、父母はどうしたらよいか考え始めました。
おばあちゃんが音楽ぎらいで、音楽のない家で育ったから、私がおんちになったのではないかと、父母は思ったようです。
母は、弟の担任で音楽が得意な俊栄先生に、相談しました。
俊栄先生は、親しい満喜子ちゃんのお父さんで、音楽が得意で、新学期から教頭先生です。
5年生になって週1回給食の後、ピアノの置いてある講堂で、俊栄先生から歌のレッスンを受けることになりました。
私のおんちを知っているクラスの皆は、「がんばって。」と送り出してくれました。
ドレミファソラシドの音を私が覚えるよう、俊栄先生は色々工夫してくれます。
しかし、私はピアノのドレミの音を聞いても、同じ高さの音が分からず、出せないのです。
覚えるどころではありません。
私が歌のけいこを始めようとしたのには、訳があります。
2年生の学芸会で、私は「さくらさくら」の踊りに出ました。
父母は「上手じゃったよ。」と、誉めてくれました。
その後、「6年生の『鶴のおんがえし』の劇に出た、つう役のお姉さんはとっても上手じゃったね。」と、母はとても感心したようです。
私もそう思いました。
その時から、私も女の子の役で劇に出て「とっても上手じゃね。」と母に誉められたいと、思うようになりました。
4年生の学芸会の相談が始まる時、「劇の主役に1回なったんで、私はもう主役も台詞のある役もできんらしいよ。」と舌切りすずめの主役をした裕子ちゃんが言いました。
「としちゃんも台詞のある役は、できんと思うよ。」と裕子ちゃん。
私のクラスは「京都弁の劇」に決まり、私は通りすがりの、台詞のないおばさん役に、選ばれました。
ちょうどその頃、「緑はるかに」の映画を観ました。
浅丘ルリ子という女の子がとても上手に演じていて、私は笑ったり涙を流して感動し、感心もしまた。
その浅丘ルリ子という女の子は「子役」と呼ばれていて、歌も上手です。
学芸会で台詞のある女の子役ができないのなら、「子役」になって「とっても上手じゃね。」と母に誉められることが、私のひそかな夢になりました。
子役は、歌を上手に歌わなくてはならないので、歌のけいこをしようと思ったのですが、難しそうです。
しばらくして、俊栄先生がバイオリンを勧めて下さり、母は大賛成です。
バイオリンは値段が高いので、「お金は大丈夫?」と母に聞きました。
「最近、ラムネを1箱ずつ買ってくれる家があるんで、仕事が忙しくなったんよ。お金のことは心配せんでええのよ。」
「それにお父さんは、たばこやお酒を飲まんからと言って、本屋さんで毎月文学全集や美術全集を買うちょるのよ。」と、本屋さんの請求書を、見せてくれました。
「ちっとも読まんで、本箱に飾ってあるだけなんよ。バイオリンやおけいこ代に使う方がよっぽど有意義よ。」とも言いました。
そういえば、父が文学全集を読んでいるのを見たことはないし、美術全集をたまにながめているだけです。
読むといえば、以前時々私達に童話を読んでくれていました。
弟と一緒に、月2回土曜に隣の市のバイオリン教室に、通うことになりました。
バイオリンの音を聴くと、音がよく分かるようになるらしいのですが、音がなかなか出なくて、「キーキーギーギー」ばかりです。
私は4年生の秋まで、土曜日は休まず絵の教室に行っていました。
絵の教室の敏春先生は、夏休みのキャンプの時訪ねて来た笑顔がステキで優しそうな人と、秋に結婚しました。
私はなんだかつまらない気分になり、絵の教室を休みがちだったのです。
だから、バイオリンのけいこが、ちょうどよかったのです。
しばらくして学校の音楽部の先生が誘ってくれたので、音楽部に行ってみました。
合奏の時、先生が「まわりのバイオリンの人の弓の動きに合わせて、ソばかりを弾きなさい。」と言いました。
弓を合わせてソの音を弾くだけでも、難しく疲れるので、長続きしませんでした。
音楽部には、満喜子ちゃんも瞳ちゃんもいて、みんながとても上手なので、感心するばかりです。
次の年、西日本合奏コンクールで最優秀校に選ばれました。
音楽の授業の時、私は「ドレミー。」と歌ってみても、オルガンのドレミの音と違っているようで、がっかりしてばかりです。
そこで、私はすこし遅れるけど、オルガンの音や、みんなの歌声をよく聴いて合わせて歌うと、時々合うような気がしてきました。
「音を楽しむと書いて音楽。」と聞きましたが、私にはよく聞いて合わせることが難しく、まだ楽しめません。
しかし、たて笛は気をつけて吹けば、きれいな音が出るので嬉しくなり、好きになりました。
また、歌うことは音を合わせるのに疲れるけど、歌や音楽を聴くことはとても楽で、好きになりました。
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