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第45回 昭和32年秋 失敗の相談室 

2014年04月03日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し


6年の2学期、みんなにないしょで勝手に「失敗した時の相談室」を開きました。
「困った時相談してね。」
「失敗した時相談してね。」とつい口に出てしまいます。
「相談があるんじゃ。」と男子が声をかけました。
「なあに?」と私。
「瞳ちゃんの家の電話番号を、教えてほしいんじゃけど。」と男子。
これって相談でしょうか? あまり気分よくありません。
「家が近いから、電話しないから、番号知らないの。瞳ちゃんのお父さんに聞いてから教えるわ。」と応えました。
学校で、男子が瞳ちゃんに話し掛けると、みんなにひやかされます。
家に帰ってから遊ぶ約束をするために、電話をしたいので、私に番号を聞いたのです。
男子が私に話しかけても、ひやかされることはないようです。
つい先日、「瞳ちゃんと2人で歩いていると、どう見ても、あんたは瞳ちゃんの引き立て役だわ。」と姉が言ったことを、思い出しました。
2人の時瞳ちゃんは見えますが、自分自身は見えないので、私にはよく分かりませんが、友達の引き立て役ならいいと思います。
瞳ちゃんのお母さんは東北美人です。
瞳ちゃんも、背が高く八頭身美人なので、男子の人気の的です。
「お父さんに聞く。」と私が言ったので、知られると恐いからか、男子は二度と瞳ちゃんのことを聞いてきませんでした。
その頃は「地震かみなり火事おやじ」と言って、おやじ(お父さんのこと)は恐れられていました。
私も瞳ちゃんの家の電話番号は、聞かずじまいでした。
近くなので電話する必要ないし、もし電話しようものなら「行って話しなさい。」と家族に注意されるからです。
2番目の相談(?)は、教室で「運動会」のポスターを描いている時です。
友達がポスターの「運」の字の色を失敗して、困っているようです。
私は、濃い色にするか縞柄にするよう、勧めました。
言うより塗る方が早いので、塗ろうとしました。
友達はあわてて、自分で塗り始めました。
友達の方が私より、仕上げは上手なのです。
友達は満足に仕上がったようで笑顔です。
困っていて相談された時だけ、いい案が浮かべば伝えたらよいことに、気がつきました。
つぎに、1人の男子が「相談があるんや。学校の帰りに、妙見寺の境内に来てくれや。」と誘いに来ました。
なにかこんたんがあるかもしれないと思ったのですが、学校と我家の中間にある妙見寺に行ってみました。
妙見寺には、樹木がたくさんあり、四角い池にかめがいます。
2人の男子が、先に来ていて、かめを見ていました。
私の姿を見るとやって来て、「ゆみちゃんも誘って遊ぼう。」と言います。
ゆみちゃんは境内のそばに住んでいて、バレー教室に通っているかわいらしい女の子です、誘いに行くと、バレー教室に行って留守でした。
ゆみちゃんを好きな男子が、バレーの発表会の招待状を、貰って欲しいことが分かりました。
去年、私は招待状を貰いましたが、今年は貰えるかどうか分からないので、引き受ける返事をしませんでした。
遊ぶのもそこそこ、男子は帰って行きました。
私はひとりぼっちになり、少しがっかりですが、気を取り直して家に帰り、瞳ちゃんの家に遊びに行きました。
しばらくしたある日、椿ちゃんが「茂子ちゃんが恐い顔でにらむんよ。いやなんよ。」と困った顔と声です。
相談されたと感じた私は、「どうしてなのか聞いてみようか?」と聞き返しました。
椿ちゃんが頷いたので、校庭にいた茂子ちゃんのところに行きました。
茂子ちゃんとは、幼稚園の時一緒で、親しいほうです。
背が高くて活発で強そうに見えます。
そういえば、時々、不機嫌な顔をしていることがあります。
椿ちゃんの名前は出さないで、「茂子ちゃん。にらまれていやだと言う友達がいるけど、何か理由があるん?」と聞いてみました。
「誰のことかな?私は、弱いものいじめする人をにらんじょるよ。」と茂子ちゃん。
「そうかー。分かったわ。弱いものいじめは許せんよね。」と私。
2人とも少し笑顔でうなづき合いました。
校門で待っていた椿ちゃんに「茂子ちゃんは、弱いものいじめした時、にらむと言うちょったよ。」と伝えました。
椿ちゃんは、「ふーん。」と言って、少し考えているようでしたが、すぐに帰って行きました。
私の相談室は役に立ったのかどうか分かりません。
その時、茂子ちゃんが弱いものいじめが嫌いなことが分かって、嬉しくなりました。
茂子ちゃんと協力したら、私の小学校では、万一、弱いものいじめが始まっても、すぐ終わると思えました。
帰りは瞳ちゃんと一緒です。
最近、体育の時間、平均台を歩いています。
私は両手を広げて歩けば、落ちないで歩けるようになりました。
切戸川の堤防は平均台より幅広なので、歩きやすくて、平均台のけいこになりそうです。
瞳ちゃんも同じように思っているようで、意気投合。
さっそく、ランドセルを下ろして、左手側には川そして右手側には道路を見ながら、堤防の上を歩き始めました。
堤防の高さは20センチ位なので大丈夫ですが、だんだん高くなり橋の欄干(らんかんと言って、橋の入り口の柱)に近づくと1メートル位の高さがあります。
少しスリルがありますが、欄干まで行ってみたいので進みました。
「コラー。危ないから降りろ。女の子が堤防を歩くのを初めて見たぞ!」と、橋に一番近い家の高校生のお兄さんが、大声をあげたのです。
私達は、堤防から飛び降りました。
あーあ、私達のチャレンジは、失敗に終わりました。
お兄さんは、少し前までは丸坊主でしたが、もうすぐ、大学受験をするので、髪の毛を伸ばし始めています。
都会の高校生は髪の毛を伸ばしているので、受験の時、丸坊主だと中学生と間違われたり、気後れすることがあるらしいのです。
髪の毛が伸びてバサバサで、動物図鑑のやまあらしのように見えます。
やまあらしのあだながぴったりと思い、「やまあらしー。やまあらしー。」と言いながら、走って家に帰りました。
3日後、瞳ちゃんと切戸橋に来た時、どうしても堤防を歩いて橋の欄干をタッチしたい気持を、抑え切れなくなりました。
あの高校生のお兄さんが、いないか確かめると、今日は姿が見えません。
はやく実行しようと、私が先に堤防に上がって、歩き始めました。
少しスリルがあるけど、両手を広げれば安定して平気です。
ゆっくり歩いて、欄干にタッチして「ヤッター!大成功!」と両手を上げた時です。
あのお兄さんが、自転車のブレーキの音を立てて、止まりました。
「こらー。」と言ったので、飛び降りて、「ごめんなさい。」とあわてて言いました。
「あきれた女の子だ。もう二度と登ったらだめじゃ。」ときつい声です。
「ハイ、二度とやりません。」と真面目な声ではっきり言いました。
1回欄干まで行けば、満足だったのです。
「そんならええけど。」とお兄さんはやさしい顔になりました。
「あやまるに限る」と言う言葉を聞いたことがありますが、その通りと感じました。
「としちゃんは、ほうかいぼーだなー。」と笑いながらおにいさんが言いましたが、私には何のことやらさっぱり分かりません。
「やまあらしー。さよならー。」と言いながら、ランドセルを手に提げて、大急ぎで別れました。
このことを「失敗は成功の元」とは言わないような気がします。
その後、なぜかお兄さんと、よく会うのです。
「やまあらしさん。おはよう。」と挨拶すると、「よう!ほうかいぼうー。おはよう。」と笑って挨拶してくれます。
「やまあらし。」と変なあだなのつもりで言っているのに、お兄さんはきげんいいのです。
中学生になってから、お兄さんは勘違いして夏目漱石の坊ちゃんに出てくる「やまあらし」と、思ったのだろうと気がつきました。
「ほうかいぼー」の意味を聞きたかったのですが、お兄さんは高校を卒業して遠くの大学に行って就職したそうで、会っていません。
今度会ったら、必ず「ほうかいぼー」の意味を聞きたいと思っています。

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