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第37回 昭和32年2月 私は女らしい?
2014年03月16日
テーマ:テーマ無し
3学期が始まりしばらくしてから、「5年生の女子だけ家庭科室に集まって下さい。」と、給食の後放送がありました。
女子みんなが集まると、5年生の女の先生が来て「生理」「初潮」「月経」「卵子」「子宮」と黒板に書きました。
「今日は女の人の生理についてのお話です。」
「みなさんは、これから胸がふくらんで体つきもふっくらして、女らしくなります。」
「初めての出血を初潮と言います。その後、月一回数日間の出血があり、それを月経と言います。病気ではないので安心して下さい。」
「卵子がお腹の中にある証拠ですよ。清潔に手当てしましょう。出血が多い時や辛い時は、体育の時間を見学してもいいですよ。」と、先生の話が続きました。
そして生理用パンツと生理用にカットした綿を、見せてくれました。
その頃はまだ生理用ナプキンは売っていなかったのです。
「男子は夢精があって、射精が始まります。結婚して一緒に寝て、卵子と精子が出会って妊娠したら、月経は止まります。」
「お腹の中の子宮という袋の中で、赤ちゃんは育ちます。すばらしい事です。自分の体を大切にしましょう。」と続きました。
その時、家庭科室の裏の方でガタガタ音がしました。
男子が天井裏に上って、話を聞こうとしたらしいのです。
先生に見つかってしまい、逃げて行きました。
あくる日、男子は家庭科室に集められて「男子だけの話」を聞いたようです。
私達女子は生理の話で持ちきりになり、にぎやかです。
その夜、押入から布団を出す時、俊君の家でかくれんぼをした時のことが、頭に浮かびました。
押入の布団の中で男の子とピッタリくっついて、体が熱くなったことです。
私はひょっとして、妊娠したのではないかと心配です。
まだ胸がふくらんでいないし初潮もないから、妊娠しないと思うけど、気になってしかたありません。
しかし、その日もドッチボールや三角ベースをして疲れたので、気になりつつ眠ってしまいました。
次の日、学校で明子ちゃんが「生理中だから体育の時間休むんよ。」と言います。
みんなが「お腹が痛いん? 」と聞きますと、「ううん。胸が張っちょるの。」
「それにブルマーが汚れたらいやじゃから休む。」とふくらんだ胸をさわって、応えました。
それを聞いて、私はちっとも膨らんでいない胸と下腹も、張ったような気がします。
しかし生活発表会の前なので、そちらに気を取られ、心配事は忘れました。
私は劇に出たかったのですが、他に劇に出たい人がいなかったので、残念ながら劇はありません。
北海道のアイヌの歌や踊りの発表になりました。
生活発表会が終わった翌日、母は神戸のいとこの結婚式に出かけました。
次の日は、5年生最後の遠足です。
夕食後、姉と一緒に「始めチョロチョロ、中ぱっぱ」と言いながら、ごはんを炊きました。
梅干入りのおにぎりと卵焼きを作り、漬物も入れてお弁当はできあがりました。
布団に入ると、下腹と胸が張っているようで、心臓がドキドキしています。
明日は遠足だから早く眠ろうとしますが気になります。
明日、瞳ちゃんに、俊君の家でのかくれんぼの時の妊娠の心配事を、話してみようと決めました。
すると、すぐに眠ってしまったようです。
あくる朝、外はよい天気。
起きようとすると、パンツが湿っている感じです。
そんなばかな、もうおねしょなんかしないはずとパンツを見ました。
なんと、パンツが赤く染まっています。
となりに寝ていた姉が気付いて、母が買い置きしていた生理用パンツとカット綿を出してくれました。
「遠足だから休んだら。」と姉。
「遠足だから休まない。」と私。
「山に登る前に、便所に行って取り替えるんよ。」と言って、姉がカット綿を軟らかいちり紙で包み、巾着袋に入れてくれました。
リュックにいつも通りお弁当など入れて、生理用カット綿入り巾着もちゃんと入れて、瞳ちゃんを誘いに出発。
瞳ちゃんに、妊娠の心配事はなくなったし、初潮の事も言わないことにしました。
胸がちっともふくらんでいない私に、初潮があったことが、恥ずかしい気がしたからです。
遠足は隣の駅まで汽車で行き、近くの大島山へ。
駅の便所で、カット綿を交換したので安心です。
上り道で、「としちゃん、歩き方がいつもと違うけど、どうしたん?」としおりちゃんが声をかけてくれました。
「ちょっとここが、いつもと少うし違うんよ。でも平気よ。」と、足の付け根をさわって言いました。
しおりちゃんは石のない方の道をゆずってくれて、一緒に登りました。
しおりちゃんの家はお店をしていて、足の不自由な人が働いています。
だから、私の歩き方に気がついて、やさしくしてくれるのだと思いました。
私は心も体もポカポカになりながら、登りました。
頂上は風がさわやかでいい気分です。
空はすみわたり、眼下の瀬戸内海はキラキラ輝き、心配事の消えた私の心のようです。
お腹がすいたので、お弁当がおいしかったこと。
遠足に来て、ほんとうによかったと思いました。
山頂で遊び、おやつやおしゃべりの後、下山です。
その夜は、初めての経験で疲れたので、早く寝床に入りました。
翌日、母が帰ってきて赤飯を炊いて「初潮」を祝ってくれました。
姉は生理が始まってから、父と一緒にお風呂に入りません。
私は今まで頭の髪の毛を洗う時は、必ず父と一緒でした。
父に洗面器でお湯を汲んで、髪に流して貰うためです。
これからは一人で入るので大変ですが、頑張るつもりです。
その頃は家庭のお風呂に、シャワーはなかったのです。
それから後、父がお風呂を誘わなくなり、なんだか淋しそうです。
つぎの日曜の朝、私は板の間の拭き掃除を始めました。
拭き掃除をすると、母が喜ぶからです。
その時、母の本箱に「妊娠しやすい方法」と書いてある、婦人雑誌の付録を見つけました。
母はもう赤ちゃんを産まないので見ないのか、袋とじのままです。
そっと隙間を開くと、男の人と女の人が裸で抱き合っている絵が三つ見えます。
私は絵のように裸で抱き合ったら妊娠するのだと、分かったのです。
「なーんだ、そうだったのか。」もっと早く知っていれば、心配しなかったのに。
私は、今は赤ちゃんの世話ができないので無理だけど、大人になったら赤ちゃんを産んで育てられるようになれるかなと、少し不安と期待の気持ちがうまれました。
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