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第43回 昭和32年6月 大失敗をどうしよう!
2014年03月30日
テーマ:テーマ無し
「前代未聞」と先生に言われた大失敗のことは、すっかり忘れていました。
次の習字の時間がある朝、思い出しました。
どうしたらよいか考えますが、よい案が浮かびません。
習字の時間がやってきました。
まわりの男子から話し掛けられても、知らん顔して墨をすり続けました。
今日は先生の声がよく聞こえます。
「そうだ。先生が教えてくれたように、しっかり習字の練習をしよう。名誉挽回の近道だわ。」と気がついたのです。
私は今まで、言われた通り決まった通りに、そして何度も同じように書くのは苦手でした。
今日は、はらう筆使いや、はねる筆使いなどに気をつけて書くことにします。
習字の時間があっという間に終りました。
次の習字の時間も、その次の時間もしっかり墨をすって、筆使いに注意して取り組みました。
先生の付けてくれる丸が、少し増えたので、嬉しくなりました。
最近、親しくなった副担任の昌弘先生が、絵の教室の手伝いをするので、休んでいた絵の教室に行きたくなりました。
そうすると、バイオリン教室に行けません。
しばらく、バイオリン教室をお休みすることにしました。
母はがっかりですが、弟と私が乗り気でないのであきらめたようです。
梅雨が終った土曜日の絵の教室です。
「雨の後で、屋根がきれいだから、校舎の屋上から見下ろして、屋根を描くことにしよう。」と敏春先生が提案しました。
屋上に上って下を見ると、お寺の屋根や二階建てや平屋の屋根が、あちこち向いて広がっています。
柿の木の葉やもみじの葉が、青々と生き生きしています。
瓦1枚1枚描いていくのは大変です。
見える屋根が少しずつ違っていて、みんなが描いた屋根もそれぞれ違って、おもしろい絵です。
みんなは色を付けたかったけど、太陽が強く照り始めていたし時間も遅くなったので、「今日はおしまーい。」と敏春先生。
「明日来て、仕上げたーい!」と砂子ちゃんが言いました。
昌弘先生が来てくれることになり、明日の日曜、数人の女子が登校することになりました。
日曜の朝、学校に行ってみると、和子ちゃんと玲子ちゃんと砂子ちゃん達がおしゃべりしながら、色をつけています。
遅れて行った私は、鉛筆の下書きの屋根や木をなぞって、黒マジックの一本線で描きあげました。
つぎに、屋根瓦に習字のはらう筆づかいで、すーすーと濃い色や薄い色を入れていきました。
大きい画用紙いっぱいの屋根もこれなら早めに仕上がると思ったのです。
葉っぱは小筆で点の筆づかいで色を付けました。
全部色を塗らないので、茶道を習っているお寺の、床の間の掛け軸画ようです。
空はうすく色を付けて、みんなと同じ時に仕上がりました。
次の絵の教室で、「トンコ、筆づかいがうまくなったなー。この屋根の絵はなかなかいいぞ!」と敏春先生が誉めてくれたのです。
嬉しい気持ちで家に帰り、そのことを母に話しました。
「としちゃんは、左ききじゃと思うんよ。右手で筆使いがうまいなんて、すごいね。」と母の感心した声です。
「やっぱり私は左ききなのね。」と問い返すと、「箸と鉛筆は右手で持っちょったけど、まりつきやお汁を注ぐのは左手で上手よ。」と母。
「1年の時、踊ったような字で、ますからはみ出ちょったよ。仕方ないと思って何も言わんかったんよ。だんだん右手でお魚の身を取るのが上手になったから、そのうち字もうまくなるかと思っちょったんよ。」とも言いました。
その時、「左利きを無理に直すと、落ち着きのない子になるらしいよ。」と友達のお母さんが言ったことを、思い出しました。
私は小学1年の時、通知表の「落ち着きがない」を読めませんでしたが、今はもちろん読めます。
「1年の時、私は落ち着きがなかったん?」と母に聞きました。
「そうよ。だから家庭訪問の時、抱っこして先生と話しちょったんよ。そうしないと、そばで跳んだ跳ねたりうろうろするから、先生の話が聞けんかったんよ。」と、そんなこと分かっていたでしょ、という言い方です。
3年生まで抱っこしてくれて、小さい時の抱っこの思い出がなかったので、嬉しかったのを思い出しました。
「それにね、学校の個人懇談会の時、いいことも言われるけど、分かっているのに嫌なことも言われるんよ。家庭訪問の時もそうなんよ。」と母。
「だけど、としちゃんを抱っこしちょったら、先生は嫌なことを言われんのよ。だから、3年生まで家庭訪問の時は、抱っこしちょったんよ。」
「4年生になると、だいぶ落ち着いてきたんよ。先生も困ることが減ったらしく、嫌なことを言われんようになったから、抱っこせんようになったんよ。」とも。
「そうかなー?授業中は椅子に座っていたと思うけどなー。」と私。
「注意散漫で、鉄棒から落ちて気を失ったり、高いところに登って落ちて怪我をしたり、そうそう、肺活量を計る時、息を吐きすぎて倒れたリするから、先生は困ったんじゃと思うんよ。」と母。
同じ組の恵子ちゃんは左利きなのに、右手で字を書いたりそろばんもはじいて、とても上手です。それに、落ち着いているようです。
これからは恵子ちゃんを見習って、ゆっくり注意して動こうと思います。
習字の時間に、大失敗したのですが、筆使いがうまくなったので「失敗は成功の元」と思うことにしました。
私は今までの失敗した数では、みんなに負けない気がします。
そんな時、いろいろな人に助けられたりお世話になってきました。
これからは、失敗した人を助けようと思います。
だから「失敗して困っている人の相談室」を、みんなに内緒で勝手に開くことにしました。
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