+++通路の向こうへもんどりを打って転げた。壁が
突然消失したからである。私が仰天した途端、女が甲
高い声で笑った:
「アッハハーー!」
「ーーーー?」
20/60.キュン!
「ゴメンナサイ!ゴメンナサイ!ゴメンナサイね!」
そう言いながら、又女が笑った。
「ーーー??」
「ウフフ、ねえ、お判りになりましたーーー? 今の
が、最近練習している「壁」という題目のお芝居のひ
とコマなんです。 今のは十秒の寸劇でしたけれど、舞
台に「架空の壁」が存在するパフォーマンスです。 寺
山修司!」
私は驚嘆した。道の真ん中にあたかも透明なガラス
の壁が立ちはだかってあるかのようなパントマイム
を、女は即興で演じて見せたのだった。
壁にぶつかった時の困惑した表情、現実には有りも
しない壁をペタペタ触り、体を寄り掛からせて押した
り引いたりして見せた時の、迫真の演技に私は舌を巻
いた。
駐車場で私がバレエの練習とは何かと問うた時、
「直ぐに判るわ!」と女は答えたが、これが返事だ
った。女は私の心臓を捉えて、キュン!と言わせ
た。
(比呂よし)
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